A Taste of Music Vol.242018 03

Contents

◎Live Review
 
The Levin Brothers at BLUES ALLEY JAPAN

◎Featured Artist
 
The Doors

◎Recommended Albums & Films
 
The Doors『The Doors』, 『Strange Days』, 『Live at the Isle of Wight Festival 1970』, Carole King『Tapestry: Live in Hyde Park』, Joan Baez『75th Birthday Celebration』, Bob Dylan『In & Out of Folk Revival 1961 - 1965 Roads Rapidly Changing』

◎Coming Soon
 
Morgan James

◎PB’s Sound Impression
 
「KAGURANE」

構成◎山本 昇

Introduction

 今回のA Taste of Musicは、神楽坂にあるユニークなライヴハウス「神楽音(かぐらね)」にお邪魔しています。神楽坂のライヴハウスと言えば、Vol.19で「TheGLEE」を訪問しましたが、このあたりには個性的なお店が多いですね。この神楽音も、規模は小さめながら音にこだわり、また映像設備にも力を入れているとのことで、今回は珍しく音楽の映像作品にスポットを当ててお送りしようと思います。

 神楽坂に来ると思い出すのは、意外にもラジオ番組の収録です。このあたりにあったラジオの制作会社に定期的に通っていました。もうずいぶん昔のことですが、懐かしいですね。神楽坂にはまた、美味しいレストランがいっぱいありますから、ときどき食事をしに来ることもありますね。

 さて、本題に入る前に、ちょっと面白い写真集を紹介させてください。僕らのようなアナログ・レコード好きにはたまらない1冊が今年の1月に発売されました。その名も『針と溝 stylus & groove』(著者:齋藤圭吾)。前半はレコード針を、どアップで接写している写真で、後半はレコード盤の溝を、これでもかというくらいにやはり接写でとらえた写真が並びます。レコード・マニアに向けたものというよりも、僕はアートの本として面白いと思いました。特にレコードの溝はすごく美しい(笑)。ほとんど直線に見えるところがあれば、激しく蛇行している溝もあります。僕みたいなアナログ世代の人間はその仕組みをある程度は分かっているけど、それでもレコードの溝をこんなにまじまじと見たことはないから、「あー、こんなふうになっているのか」と、あらためて驚いたし、若い人が見てもすごく不思議な感じがして面白いんじゃないかなと思いました。レコードの写真には、アーティスト名とタイトルもちゃんと記してあって、そこがまたちょっと笑えるんです。超マニアックな本というよりは、アートな写真集という感じで手に取って見てもらえれば、何か響いてくるものがあるかもしれません。

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齋藤圭吾『針と溝 stylus & groove』(本の雑誌社刊)◎まるで宝石のようなレコード針とレコード盤に走る無数の音溝。その正体をマクロ撮影で捉えた前代未聞の写真集からは、観ているだけで心地よい音楽が響いてきそう。

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“針”はヴィンテージ品が多く、それぞれに独特の風格を感じさせ、“溝”は音楽のタイプによって様々な表情を持っていることが分かる(写真はいずれも『針と溝』から)。

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ライヴハウス「神楽音」

Live Review

予想以上に楽しめた、
レヴィン・ブラザーズのストレートなジャズ演奏

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初の来日ツアーを果たしたレヴィン・ブラザーズ。左から、ピート・レヴィン、エリック・ローレンス、ジェフ・シーゲル、トニー・レヴィン。写真はすべて、1月19日「モーションブルー横浜」のステージから。[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]

 キング・クリムゾンのメンバーであり、ピーター・ゲイブリエルのバックも務めるベイスシトとしても知られるトニー・レヴィンが、お兄さんでピアニストのピート・レヴィンと組んだユニット、レヴィン・ブラザーズが日本ツアーを行いました。ちょっと興味があって、僕は1月18日に目黒の「ブルース アレイ ジャパン」で行われた東京公演を観ました。かつて1981年にキング・クリムゾンが『Discipline』というアルバムで再結成したときのメンバーがロバート・フリップ、ビル・ブルーフォード、エイドリアン・ブルー、そしてトニー・レヴィンの4人でした。当時、その彼らが来日公演を行うことになりました。僕は日本で最初に勤めたシンコー・ミュージックで、EGミュージックという音楽出版会社とのやりとりを担当し、そこのアーティストが日本に来るときには何らかの形で手伝っていたのですが、キング・クリムゾンもその所属アーティストだったので、1981年の日本ツアーでは僕もスタッフとして一緒に回ったんです。コンサートが終わると、だいたいみんなで食事に行ったりするわけですが、ロバートだけは会場からすぐにホテルに戻って自分の部屋で過ごしていました。ビル・ブルーフォードは、社交的な人ではあるけれど、基本的に早寝早起きなので、夜遅くまでは付き合わない。つまり、イギリス人の二人はさっさと帰ってしまうんだけど、アメリカ人(トニーとエイドリアン)の二人はみんなと遅くまで呑んだり食べたりしていました。だから、僕も彼らと一緒に過ごす機会も多かったんです。トニーとはそれ以来合っていなくてなんだか懐かしく、またベイシストとしてもとても上手い人だからぜひ生で観てみたいと思ったんです。ちなみに、昨年末に出た彼らのライヴ・アルバム『Special Delivery』は、ほとんどストレート・アヘッドなジャズなので意外でしたが、いい演奏でした。

 ツアー・メンバーは『Special Delivery』と同じで、ベイスのトニー・レヴィン、ピアノとオルガンのピート・レヴィン、ドラムズのジェフ・シーゲル、サックスのエリック・ローレンスという面子です。トニーは今回、得意のスティック・ベイスは持ってきていなくて、メインで弾いていたのはエレクトリック・アップライトと言うのでしょうか、コントラ・バスのボディをうんと小さくしたような5弦のエレクトリック・ベイスでした。音はコントラ・バスとはちょっと違うけれど、弾き方は同じで、ニュアンスも近い感じです。何より、ツアーでは絶対に持ち運びが楽だろうなと思いました。また、同じようなデザインで小ぶりの楽器も2曲ほどで使っていて、少し音域の高い4弦のこの楽器はどうやらチェロのエレクトリック版のようで、こちらは弓を使って弾いていました。こんな楽器があるのかと驚きましたが、演奏のヴァラエティを広げるようで面白かったですね。

 僕はいわゆるストレート・アヘッドなジャズをそれほど熱心に聴くほうではなく、特に大きな期待をしていたわけではありませんでしたが、何というか、みんな上手いから、先入観なしに聴くことができてとても良かったです。予想以上に楽しめました。セット・リストはアルバムの曲が中心ですが、ストレートなジャズに混じってサイモン&ガーファンクルで知られる「Scarborough Fair」のカヴァーや、「Havana」というレヴィン兄弟の作ったキューバふうの曲があったり、トニーが作った「Pete's Blues」というブルーズもあり、様々な曲を披露しました。また、僕が観たセットでは、ピーター・ゲイブリエルの「Don't Give Up」もカヴァーしていました。たまにはこういうのを聴くのもいいものだなと感じさせてくれるコンサートでした。

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レヴィン・ブラザーズ『Special Delivery』

photo by Yuma Totsuka

[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]

photo by Yuma Totsuka

[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]

photo by Yuma Totsuka

[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]

photo by Yuma Totsuka

[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]

photo by Yuma Totsuka

[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]

photo by Yuma Totsuka

[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]

photo by Yuma Totsuka

[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]

photo by Yuma Totsuka

[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]

Featured Artist

独特の存在感を放つヴォーカルとサウンドで
圧倒的な印象を残したバンド
THE DOORS

 ドアーズがデビューしたのは僕が高校1年生のときでした。すごく話題になったグループで、友だちの家でもファースト・アルバムの『The Doors』(1967年)はよく聴いていましたね。シングル曲の「Light My Fire」も相当ヒットしていて、ラジオでも四六時中かかっていました。前回のVol.23でも触れたように、1967年と言うと、アメリカで話題に上がるのはほとんどがサンフランシスコのグループでしたが、ロサンジェレスから出てきたドアーズはどこか雰囲気が違っていました。サウンドの印象としては、ギタリストのロビー・クリーガーがフラメンコっぽいアクースティック・ギターをときどき弾いたりするのが面白かったし、ドラマーのジョン・デンズモアは、当時はそれほど目立つ存在ではなかったけど、もちろんバンド・サウンドの面で貢献は大きかったでしょう。そしてレイ・マンザレクのオルガンは、イギリスのビート・グループがよく使っていたファルフィーザ(Farfisa)などとは違った音に聞こえました。クレジットを見るとベイシストがいなくて、ベイスのパートはレイがフェンダー・ローズのPiano Bassを弾いていたと言われていますね。そういう編成も、当時から珍しい存在でした。そして、ジム・モリスンのヴォーカルは何と言うか……上手いかどうかはともかく、その存在感に圧倒されたのは確かです。エッジが立っているようなヴォーカルには、初めて聴いたときからすごく引き込まれてしまいました。

 ずいぶん後になって、ロビー・ロバートスンにインタヴューしたとき、ドアーズのことを彼は「下手なブルーズ・バンドだよ」と一笑に付していました。ファースト・アルバム『The Doors』でもハウリン・ウルフの「Back Door Man」を録音していますが、ちょうどその頃に黒人のブルーズをたくさん聴いていた僕にしても、このカヴァーはいただけませんでした。ジム・モリスンは、はっきり言ってブルーズの歌い方は上手くない。でも、これ以外の曲はどれもよかったかな。あえて挙げれば「Whisky Bar(Alabama Song)」には最初は馴染めなかったですね。ベルトルド・ブレヒトとクルト・ヴァイルの「3文オペラ」を元にしていることを当時知らなかったこのメロディは「ロックじゃない」と感じたんです。まだ10代で、ロックに対するこだわりがあったから(笑)。まぁでも、全体としてはすごく好きで、まだLPがそれほど買えない身分なのに自分でもアルバムを買いました。

 高校1年生、つまり15歳から16歳になる頃と言えば、誰でも人生の中でいちばん多感な時期じゃないですか。その分、ドアーズに感じた当時の印象がいまでも強く残っています。だから、僕が考える彼らの傑作はファースト・アルバムの『The Doors』と、同じく1967年に発売されたセカンド・アルバムの『Strange Days』の2枚です。

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デビュー間もない頃のザ・ドアーズ。左から、ジム・モリスン、ジョン・デンズモア、レイ・マンザレク、ロビー・クリーガー

Recommended Albums & Films

デラックス・エディションで味わう
ドアーズの傑作2作品

 そして、あれからちょうど50年経った昨年、両アルバムのデラックス・エディションが発売されました。いずれもステレオ・ミックスとモノ・ミックスの両方が収録されていて、『The Doors』のほうは1967年3月にサンフランシスコで行われたライヴの音源も入っています。このファースト・アルバムにもいい曲が多いし、何と言っても「Light My Fire」という大ヒット曲があったわけですが、僕は『Strange Days』のほうが完成度は高いと思っていて、いまでも60年代の最愛聴盤の一つとなっています。曲もよく練られているし、演奏も抜群で、音もすごくいい。曲順も非常にいい感じで並べられていて、聴き終わってもまた頭から聴きたくなるんです。どちらのアルバムも最後に10分を超える長い曲が入っています。『The Doors』には「The End」、『Strange Days』には「When the Music's Over」があるから、レコードのB面には4曲しか収録されていません。いまの若い人が聴くとどう感じるでしょうか。音だけ聴けば古い印象を持つかもしれませんが、プロデューサーのポール・ロスチャイルドは腕の立つ人だし、エンジニアのブルース・ボトニックは大変いい音で録っていると思います。ちなみに、モノとステレオを聴き比べると、モノは奥行き感とパンチの利いた感じがすごくよく分かります。

 では、デラックス・エディション版の『The Doors』から、「Break on Through」をモノ・ミックスで聴いてみましょう。いやあ、強烈ですよね。1967年当時としてはすごく新しい音だったと思います。パンチが利いているし、すごく整理されたサウンドでもありますね。昔はこんなにいいシステムで聴いていないから分からなかったけど、モノなのに分離もよく聞こえるじゃないですか。そして、このジム・モリスンのヴォーカルは、先ほどもお話ししたように決して上手い歌手ではないけれど、内にこもっている感情がウワーッとあふれ出て伝わってくる。このアルバムの「The End」ではエディプスの話を思わせるところがあったり、表現の限界というか、タブーとされるものにもどんどん挑んでいくような一面も見せています。有名なアメリカのテレビ番組『エド・サリヴァン・ショー』で、ジム・モリスンは番組側から「Light My Fire」の歌詞の中の“Get Much Higher”に問題があるとして“Get Much Better”と変更するように求められ、リハーサルでは渋々それを受け入れたものの、本番でいきなりレコードのとおり“higher”と歌って出入り禁止になりました。この番組ではストーンズも、「Let's Spend The Night Together」を「Let's Spend The Some Time Together」と言い換えるように求められましたが、ミック・ジャガーはエド・サリヴァンの要求をおとなしくのみましたね。

 同じくデラックス・エディション版の『Strange Days』はステレオ・ヴァージョンでいきましょう。いつもかけるのとは違う選曲で「My Eyes Have Seen You」を聴きます。1967年のステレオはまだ、もっと後の時代のミックスに比べると単純ではあるけれど、このアルバムの音は素晴らしい。レイはこのアルバムで、ピアノのほか、チェンバロのように聞こえるオルガンのセッティングでかなり繊細なフレーズを弾いているし、ロビーのギターも、細かいところで格好いいリフを決めています。同時に、全体としてもすごくパワーがある。ジムのヴォーカルも後半になるとほとんど狂ったような勢いが出てきます(笑)。「When the Music's Over」を除くと、3分足らずの短い曲も多いのに、それで十分にぶちかましてきます。一度見たら忘れられないジャケットと言い、これは本当に名盤中の名盤だと思います。

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ドアーズ『ハートに火をつけて(The Doors)』〈50thアニヴァーサリー・デラックス・エディション〉ワーナーミュージック WPCR17724〜6

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ドアーズ『まぼろしの世界(Strange Days)』〈50thアニヴァーサリー・デラックス・エディション〉ワーナーミュージック WPCR-17943〜4

1970年「ワイト島フェスティヴァル」でのドアーズ映像が登場

 この2月、ドアーズの新しい映像作品が発売されました。『ワイト島のドアーズ 1970(Live at the Isle of Wight Festival 1970)』のタイトルどおり、1970年の「ワイト島フェスティヴァル」での彼らのステージを収録したものです。イギリスの南岸にあるワイト島の音楽フェスティヴァルが始まったのは1968年で、1970年までの3回開催されました。その後2002年に復活しているようですね。1970年のフェスティヴァルは8月26日から30日過ぎまで、5日間にわたって行われています。当時の音楽祭と言えば、金曜から日曜までの3日間くらいが普通ですから、これは前代未聞だったはずです。後に『Message to Love: The Isle of Wight Festival 1970』というドキュメンタリー映画も作られましたが、出演したアーティストの数も多く、そこで取り上げられたのはほんの一部でしかありません。調べてみると、ドアーズが出演した29日の土曜日はほかにも、ジョン・セバスチャン、ショーン・フィリップス、ライトハウス、ジョーニ・ミチェル、タイニー・ティム、マイルズ・デイヴィス、テン・イヤーズ・アフター、EL&P、ザ・フー、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、メラニーも出ています。元々は映画にすることを想定していたからか、画質は悪くないですし、ドアーズのエンジニアだったブルース・ボトニックが8トラックのマルチ・テープからステレオと5.1chのサラウンドにミックスしたという音も、思いのほかいいですね。

 ジムのヴォーカルはそれなりに迫力があるし、バックの3人の演奏も見応えがあります。「Light My Fire」はソロをかなり長くとっていて、ロビー・クリーガーはジョン・コルトレインが取り上げたことで印象ががらりと変わってしまった「My Favorite Things」を引用したりしています。その間、ジムはちょっとまったりとして、やや虚ろな表情のようにも見えますが(笑)、まぁ、メンバーの長いソロが終わるのを待っているヴォーカリストはだいたいこんな感じでしょうか。

 ドアーズのコンサートというと、僕は1968年にロンドンで、ジェファスン・エアプレインとの2本立てのライヴを観たのが最初です。ジェファスン・エアプレインとドアーズが交互に2回ずつ演奏するのですが、当時高校生の僕らにはチケット代が高くて買えなかったから、最後にドアーズが出てくる深夜まで待って、警備の人に頼んで安く入れてもらったんですよ(笑)。そのとき、会場の一番後ろから観た生のドアーズには、やはりすごい衝撃を受けました。

 ワイト島フェスティヴァルは、僕も1969年の8月に観ました。ボブ・ディランとザ・バンドがトリを務めた年ですね。2週間前にアメリカでウッドストック・フェスティヴァルが開催されていますが、その映像を観られたのは翌年ですから(笑)、こういう大規模なロック・フェスティヴァルがどういうものなのか、まだ全然分かっていない頃の話です。フェリーで渡るイギリス最南端のこの島は、僕らが子供の頃には夏休みのリゾート地としてもけっこう流行っていたんです。僕も甘い考えで寝袋一つで行きましたが、イギリスは8月も終わりになると夜はけっこう寒いんですよ。フェスの最中はそれなりに楽しく過ごしたんですが、家に帰ったら母親が「あんたの顔は緑色ね」と、つまり死にそうな顔色をしていると言われたのを覚えています(笑)。こういうフェスはステージも遠くて、今みたいに大きなスクリーンがあるわけでもないから、映像を観るような感激はないんですよ。でも、大勢の人たちが集まって音楽のフェスティヴァルを盛り上げるという興奮はすごくありました。特にディランがしばらくライヴをやっていないときだったから、大きな話題にもなりましたしね。個人的には「With a Little Help from My Friends」をヒットさせていたジョー・コッカーが出ていたのも楽しみでした。そのほかでよかったのはザ・ナイスかな。僕はEL&Pは好みじゃなかったけど、ザ・ナイスは案外好きなときもあって、楽しめました。

 話を『ワイト島のドアーズ 1970』に戻すと、48年を経てようやく出てきたドアーズの映像ですから、希少価値も高い。映像もレストアされているしサウンドも良好です。ドアーズのファンだったら間違いなく楽しめる作品だと思います。

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ドアーズ『ワイト島のドアーズ 1970(Live at the Isle Of Wight Festival 1970)』ヤマハミュージックメディア YMBA10740(DVD+CD)

photo by Yuma Totsuka

『ワイト島のドアーズ 1970』から

photo by Yuma Totsuka

『ワイト島のドアーズ 1970』から

photo by Yuma Totsuka

『ワイト島のドアーズ 1970』から

見逃すのはもったいない!
 新企画[パッケージ作品の音楽映像を愉しむ]

Carole King『Tapestry: Live in Hyde Park』
オープニングから一気に盛り上がる必見ライヴ映像!

 ここ数年、様々なアーティストのデラックス・エディションや初回プレスの特典としてDVDやBlu-rayをセットにしたパッケージ作品が増えていますね。僕もそうだったのですが、とりあえずCDを聴いて、映像はあとで観ようと思いつつ、そのまま忘れてしまっている人も多いのではないでしょうか。ところがこれらをよく観てみたら、実に面白いことに気が付きました。単なるオマケ程度のものだと思ったら大間違い。大変に見応えのある作品であることが多いのです。というわけで、今回はちょっと趣向を変えて、CDなどのパッケージに含まれる映像作品を鑑賞したいと思います。

 まずは昨年発売されたキャロル・キングの『Tapestry: Live in Hyde Park』を頭から観てみましょう。これは2016年の7月3日にロンドンのハイド・パークで催された、彼女の大ヒット・アルバム『Tapestry』(1971年)の全曲再現ライヴの模様を収録したものです。当日は6万5千人もの大観衆が押し寄せたということで、すごい熱気ですね。オープニングでは、トム・ハンクスやエルトン・ジョン、ジェイムズ・テイラーなどが映像でスクリーンに登場して場を盛り上げて、1曲目の「I Feel the Earth Move」が始まる流れは、もう最高です。この野外会場の始めのシーンはまだ外が明るいんですが、実はこれでけっこう夜に近いんですよ。ロンドンの夏は午後10時くらいにならないと暗くならないんです。だから、ライヴが始まったのは恐らく8時頃じゃないかな。それにしても、ものすごい数の人たちがハイド・パークを埋め尽くしていますね。バックもとてもいい演奏を聴かせていて、『Tapestry』の録音にも参加しているギタリストのダニー・コーチマーの姿もあります。『Tapestry』の全曲に続いて、60年代に彼女がジェリー・ゴフィンと一緒に作った曲のメドリーをやったり、彼女の生涯を描いたミュージカル『Beautiful』のキャストたちが出てきたりと、内容も盛りだくさん。このDVDは音も良くて、とにかく素晴らしいですね。

 7曲目の「You've Got a Friend」などでは観客も一緒にコーラスを歌っていますが、それらを観ると高齢者に交じって若い女性たちの姿も目立ちます。このアルバムが出たのは47年も前のことだから、そのときはまだ生まれていなかった、30代や20代の人たちも多かったということになります。ラジオで耳にしたのか、誰かから勧められて好きになったのかは分かりませんが、こうしたアルバムが若い世代にも継続して聴かれているのは素晴らしいことだと思います。また、キャロル・キングは1942年生まれだから、74歳のときの映像ですが、これだけ歌えるというのもすごいですよね。このライヴ・アルバムはCDもいいけれど、映像もぜひ観てほしい。とても丁寧に撮っていて、上映会をやりたくなるくらい、感動的なものに仕上がっています。実際の話、僕は観ていて何度も感極まってしまいました。アルバムが出てすぐに、ちゃんと観ればよかった(笑)。

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キャロル・キング『つづれおり:ライヴ・イン・ハイド・パーク(Tapestry: Live in Hyde Park)』ソニーミュージックSICP 31074~5(DVD+CD)*日本版のDVDは字幕付き

photo:Elissa Kline

photo:Elissa Kline

hoto:Brian Rasic

photo:Brian Rasic

photo:Elissa Kline

photo:Elissa Kline


Joan Baez『75th Birthday Celebration』
75歳を迎えた“フォークの歌姫”がコンサートで見せる貫禄

 続いてはVol.16でもご紹介したジョーン・バエズの『75th Birthday Celebration』の映像です。2016年の1月27日、75歳となった彼女をお祝いした、ニューヨークのビーコン・シアターでのコンサートを2枚のCDに収めたこのライヴ・アルバムには、DVD付きのヴァージョンも発売されました。DVDにはCDと同じく21曲が収録されています。前回もお話ししたようにこのコンサートはゲストが充実していて、デイヴィッド・クロズビー、ポール・サイモン、リチャード・トンプスン、ジャクスン・ブラウン、ジューディ・コリンズなど超豪華なラインアップとなっています。

 一方で5曲目の「She Moved Through the Fair」はアイルランドのフォーク・シンガー、デイミアン・ライスとの共演です。ジョーン・バエズはMCで、「他のゲストと違って、彼は昔から知っている人ではありません。なにしろ、年齢は私の1/4ですから(笑)」と言っていますが、これはちょっと大げさで、デイミアン・ライスはこのときすでに42歳。確かに、一般的には有名ではないけれど、彼の歌をとても気に入っていたから招いたということです。彼のほかにも、今年32歳のチリ人、ナノ・スターンも紹介しています。華々しい顔ぶれの中に、彼女がこういう新人も選んで入れているのは意義深いことだと思いました。そして、9曲目はボブ・ディランの「Seven Curses」ですが、彼女はこんなことを言っています。「この曲は、アイルランドかスコットランドかイングランドのどこかで生まれたものに違いないけれど、ボブ・ディランは自分で作曲したと言っているからグーグルではそういうことになっています」。もちろん会場は大ウケ。さらに彼の言い方を真似て「It'a Good Song」とか言っています(笑)。ディランに対してそんな皮肉を言えるのは彼女くらいのものかもしれません。最近発売されたボブ・ディランのドキュメンタリー作品『ボブ・ディラン・ドキュメンタリー・シリーズ VOL.1 ボブ・ディラン/我が道は変る〜1961-1965 フォークの時代〜』を観ても分かるとおり、ジョーン・バエズがフォーク界の大スターであったからこそ、彼女に見出されたボブ・ディランが注目されていったわけです。この記念コンサートに登場した無名のミュージシャンと同じように、当時のボブ・ディランも、ほとんど誰にも知られていなかったわけですからね。そのあたり、クスッと笑えるところもありました。

 ちなみに、この『ボブ・ディラン・ドキュメンタリー・シリーズ VOL.1〜』もとても充実した映像作品でした。インタヴューで構成されたイギリス製作のドキュメンタリーですが、マーティン・カーシーやエリック・アンダスンのほか、いろんなライターなど、これまでに見たことがない人たちのコメントも多くて面白かったです。中には、ディランが政治的なことを扱った歌をやめたのが、ケネディ大統領が暗殺された時期と重なっているという指摘もあり、いままでそんなことを考えたことはなかったけれど、なるほどなと思いました。つまり、政治的な姿勢が気にくわないから大統領まで暗殺されるとなると、一人のシンガー・ソングライターはあまりにも狙われやすいターゲットだ、と思ったとしてもおかしくはないですね。

 また、このドキュメンタリーを観ても分かるのですが、ディランはそれほど政治活動をやろうとしていたわけではなく、むしろ当時のガール・フレンドのスーズ・ロトロやこのジョーン・バエズのほうが活動は旺盛だったんですね。この「Seven Curses」の次の「Swing Low, Sweet Chariot」はスピリチュアルの古い曲ですが、これを一人で歌う前にジョーン・バエズは、あのマーティン・ルーサー・キングと一緒に活動していたときのことを振り返って、こんなエピソードを紹介しています。

 あるとき、キング牧師が大事な演説の前に眠ってしまうんですが、スタッフは皆、彼を起こす勇気はない。けれどスピーチの開始時間はとっくに過ぎている。そこで、彼を起こす役目を任されたジョーン・バエズはこの「Swing Low, Sweet Chariot」を歌います。すると、完全に起こすことはできなかったのですが、夢うつつのキング牧師が、「んー、天使の声が聞こえる。もう1曲歌ってくれ」と唸るように言ったそうです。そんないい話と歌に続いて披露されたのが、メイヴィス・ステイプルズとのア・カペラによる「Oh Freedom / Ain't Gonna Let Nobody Turn Me Around」です。MCでは、キング牧師と活動していた頃にもよく一緒にいたのがメイヴィス・ステイプルズだったと紹介しています。

 このコンサートでディランの曲は3曲取り上げられています。先ほどの彼が書いたのかどうかは分からない「Seven Curses」と「Don't Think Twice, It's All Right」、そして最後に歌ったのが「Forever Young」です。75歳の記念コンサートをこの曲で締めくくるというのもいいですよね。この素晴らしいライヴを観て感じるのは、ジョーン・バエズという人はなんといい歳の取り方をしているんだろうということです。かつては長い黒髪で、フォークの歌姫として君臨した彼女はソプラノの、ほとんどクラシックに近い歌声を披露していました。いまは声の音域が下がっていますが、僕はむしろこの声のほうが断然好きです。スタイルも全然崩れていないから黒い衣装がすごく絵になっているし、自然な白さで短くした髪型も格好いい。人生経験を経て、多くを語らなくても滲み出てくるものを感じるし、また言うことの一つひとつが気が利いていて、なんかいい感じなんです。このような歳の取り方ができたら最高だなと思いました。この『75th Birthday Celebration』は、いまのところ日本盤が出ておらず、DVDには字幕がないのですが、すごく見応えがあります。音もいいし演奏もいい。ゲストの顔ぶれも素晴らしく、すべてにおいて予想をはるかに上回る映像作品です。

 僕もラジオで紹介するために先にCDを聴いて、どこかに仕舞い込んだままになっていたものがたくさんありました。でもね、やはりこれはちゃんと観るべきです。最近のものは映像にもちゃんとした音が入っているし、歌っている人の表情やミュージシャンたちの手先の動きなどを観ていると、その分、感動が大きくなります。皆さんもぜひ、楽しんでみてください。今日は2タイトルしか取り上げられませんでしたが、他にもポール・サイモンやリチャード・トンプソン、さらにグレッグ・オールマンとドクター・ジョンのトリビュート・アルバムなど、いい“映像”はたくさんありますので、また別の機会にご紹介したいと思います。

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ジョーン・バエズ『75th Birthday Celebration』

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『ボブ・ディラン・ドキュメンタリー・シリーズ VOL.1 ボブ・ディラン/我が道は変る〜1961-1965 フォークの時代〜』ジェットリンク PCBE-12157(DVD)、PCXE-50783(Blu-ray)

Coming Soon

ディアンジェロを全曲カヴァーした動画も話題の女性シンガーが初来日

MORGAN JAMES

2018 3.15 thu, 3.16 fri, 3.17 sat. Blue Note TOKYO

 僕がシンガーのモーガン・ジェイムズに注目することになったきっかけは、彼女がギタリストのダグ・ワンブルと二人で、ディアンジェロの『Black Messiah』を、発売直後に全曲カヴァーしている映像をYouTubeで観たことでした。その歌がすごくよくて、彼女に「僕のラジオ番組で音を放送させてもらえますか」とメイルで問い合わせたら、快くOKしてくれました。となりでギターを弾いているダグ・ワンブルもなかなかいいプレイヤーで、ウィントン・マルサリスやカサンドラ・ウィルスンのアルバムにも参加していますが、いわゆるジャズ・ギタリストというわけでもなく、この動画を観たところではブルーズの感覚も持ち合わせています。その後モーガンと結婚したようですが、今回の来日メンバーにも名を連ねていますので、これはちょっと楽しみなコンサートになりそうです。

PB’s Sound Impression

小規模ながらサウンドと映像にこだわった
“神楽音”で音楽を鑑賞する

「音や映像をじっくり楽しむのにちょうどいい広さのライヴハウスです」

 東京のど真ん中、地下鉄神楽坂駅の目と鼻の先という好立地に、2017年の5月にオープンした「神楽音」はホールのキャパシティが80名という、比較的こぢんまりとした印象のライヴハウスです。

「最近は数百人規模で音のクオリティにこだわったライヴハウスは増えてきましたが、僕らはもっと小規模のスペースで音のいいライヴ空間を造ってみたかったんです」

 そう語るのは当施設を運営するアソルハーモニクスの森堅一さん。小さくても音のよいライヴ・スペースという設計思想も新しさを感じさせ、施工から機材の選定まで、ホールの内部にはそのコンセプトを裏付けるさまざまな工夫が見られます。例えば、すべてのワイアリングはACOUSTIC REVIVE製のケーブルで統一。そしてメイン・スピーカーはスタジアム・クラスの大規模コンサートでも定評のあるMEYER SOUNDの低歪とハイパワーを誇るUPQ-1Pをサブ・ウーファー700-HPと共に導入し、サウンドの中核を担うコンソールには、高音質なデジタル卓として定評のあるMIDAS PRO1をチョイス。さらに、高精細な映像を投影するプロジェクターも備え、多様なプログラムに対応できるのも特徴です。そんなライヴハウスでライヴ映像を鑑賞したピーター・バラカンさんは、次のように語ってくれました。

「ここは音もいいし、プロジェクターの映りもきれいだから、コンサートの映像を鑑賞するにはちょうどよく、まさに今回のような映像作品の視聴には打って付けの環境でした。こういうライヴハウスがあるのなら、音楽の映像作品などの上映会ができると面白そうですね。今日観たキャロル・キングやジョーン・バエズも、生のライヴを観る機会はあまりないかもしれないけれど、こんなにいいカメラワークで捉えられた映像としっかりとミックスされた音があるんだから、それをみんなで楽しむのもありだなと思いました。MEYER SOUNDのスピーカーもすごくいい音でした。オーディオ的な面を考えても、これくらいの広さはちょうどいいのかもしれません。ライヴはもちろん、試聴会や上映会を行うにも使い勝手のよさそうなハコですね」

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ライヴハウスで音楽映像を堪能!

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アソルハーモニクス代表の森堅一さん(右)と

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ほどよい広さの神楽音のステージ。「部屋がまだスケルトンの状態からACOUSTIC REVIVEさんにご協力をいただき、ライン・ケーブルはもちろん電源ケーブルほか、ワイアリングはすべてACOUSTIC REVIVE製品を使うなど、音響面には特に力を入れています」と森さん

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メインのパワード・スピーカーはMEYER SOUNDのUPQ-1P。「アコースティックなライヴから夜のクラブ営業まで対応できるということでこのスピーカーを選びました。最近では、メディア・アート関連のイヴェントも行われていますが、そうした方たちからも“音質がいい”という声をいただいています」(森さん)。下は、28Hzからの重低音をドライヴするサブ・ウーファーの700-HP

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CDの再生で使用したPIONEER CDJ-2000 nexus(手前)とALLEN & HEATH XONE:92L

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定在波を低減するため、壁面には音を拡散させる工夫も。「演者の皆さんにも演奏しやすい音だと好評です」(森さん)

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「明らかに響きが良くなるので、真っ先に導入しました」と森さんが紹介してくれたのは、エアコン周りの飾り板に設置されているACOUSTIC REVIVEの超低周波発生装置RR-777

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コンソールはMIDAS PRO1。「イギリス製のデジタル卓ですが、音が太いところが気に入っています」(森さん)。卓の下には音質や画質の向上を図り、ACOUSTIC REVIVEのマイナスイオン発生器RIO-5IIも設置されている。「カメラにたとえるとピントが合うというか。音の輪郭がはっきりする感じです」(森さん)

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ライヴの演出にも活用できるプロジェクターはEPSON EB-G7000W。8,000lmの明るさで、4K相当の高画質が得られるという

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今回のCD試聴で使用したACOUSTIC REVIVEのライン・ケーブルXLR-absolute-FMは、銅と銀のハイブリッドによる“PC-Triple C/EX”を採用し、世界最高レベルの導通率105%を実現した注目のニュー・モデル

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ステージ上手にあるケーブルのコネクター・ボックスもACOUSTIC REVIVE製。細部にわたり、徹底した音質重視の姿勢を貫いている

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ドリンク、フードとも充実したバーカウンター。「エゾジカのホットドッグ」などユニークなメニューも!

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バーカウンターの横にもスピーカーとプロジェクターを備えたスペースがあり、小規模なDJイヴェントにも使用できる

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今回の“視聴”ディスク

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◎主な視聴システム

パワード・スピーカー:MEYER SOUND UPQ-1P、700-HP(サブ・ウーファー)
コンソール:MIDAS PRO1
CDプレーヤー:PIONEER CDJ-2000 nexus
プロジェクター:EPSON EB-G7000W

ライヴハウス 神楽音

地下鉄東西線の神楽坂駅より徒歩1分。新たな音楽・映像体験を提供するライヴハウスとして注目される当店は、夜間はクラブ・アクトを中心とした「KGR(n)」として営業中

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電話番号:03-6265-3523
住所:東京都新宿区神楽坂6-48 TOMOS神楽坂ビルB1F
ホームページ:https://kagurane.com/schedules/