A Taste of Music Vol.302018 12

Contents

◎Live Review
 
The Animals

◎Recommended Album
 
David Crosby『Here If You Listen』

◎PB’s Sound Impression
 
David Crosby『Here If You Listen』, 元ちとせ『元唄~元ちとせ 奄美シマ唄集~』, Jimi Hendrix Experience『Electric Ladyland』, John Lennon『Imagine』, The Beatles『s/t』(White Album)

構成◎山本 昇

Introduction

『ボヘミアン・ラプソディ』観た?

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映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットでファンも急増中のクイーン

 第30回目のA Taste of Musicは、オーディオ雑誌を発行している会社、ステレオサウンドにお邪魔してお送りします。この部屋は、同社が発行する月刊誌『HiVi(ハイヴィ)』の試聴室ということで、大きなスクリーンやたくさんのスピーカーが備わっています。今回はここで、最近発売されたアルバムのほか、新たにリイシューされたジミ・ヘンドリクスやジョン・レノン、そしてビートルズのリミックスをステレオやサラウンドで楽しんでみたいと思います。そもそも僕の家にはマルチ・チャンネルを再生できる装置がないので、近年よく目にするサラウンド・ミックスを聴くことができません。今日はそれを初めて聴くのが楽しみだし、聞くところによれば、ステレオ音源をサラウンドにすることもできるのだとか。後ほど、そのあたりをじっくり聴いてみたいと思います。

 さて、このところ、いろんな人と会うたびに、「『ボヘミアン・ラプソディ』観た?」というのが挨拶代わりになっています。この映画は僕も観ましたが、一つの娯楽作品としてよく出来ていて、クイーンの熱狂的なファンでない人たちが評判を聞いて劇場に足を運んだとしても十分に楽しめる映画となっています。これをきっかけにクイーンのサウンドトラックやベスト盤を買ったり、同時代のほかのバンドの音楽を聴くようになったりしてくれるといいですね。

 クイーンと言えば、僕が日本に来た直後、雑誌『ミュージック・ライフ』が彼らを取り上げて話題になり始めました。僕はグラム・ロックが苦手な人間だから、ロンドンにいた頃は彼らの音楽を特に聴くことはありませんでしたが、僕が入社したシンコーミュージックの国際部は隣が『ミュージック・ライフ』の編集部だったから、クイーンの曲も耳に入ってくるわけですね。そのときの印象は、ハーモニーはきれいだけど、サウンドはハードな感じで、いま聴けばその受け止めはまた変わってくるかもしれませんけれど、当時はあまり興味がなかったんです。1974年の「Killer Queen」あたりはポップ・ソングとして面白いと思ったくらいでした。そして、1975年の「Bohemian Rhapsody」を聴いたときは、「なんじゃこれは?」という印象で……。ところが、この曲をあらためて面白いと思わせてくれたのが映画『ウェインズ・ワールド』(1992年)だったんです。この映画の中で、マイク・マイヤーズらが扮する若者たちがクルマに乗って「Bohemian Rhapsody」を聴きながらみんなでヘッドバンギングするシーンに爆笑してしまって(笑)。やっぱり映像の力はすごいですね。これを観て一気に面白い曲だなと思ってしまいました。昔の『ポッパーズMTV』も、曲そのものはそれほど好みではないけれど、ミュージック・ヴィデオとしては良く出来ているなというものもたくさん放送していたことを思い出しました。いまクイーンの曲を聴くと、そんな懐かしさもありますね。

 ちなみに映画『ボヘミアン・ラプソディ』には、レコード会社の幹部が出来上がった「Bohemian Rhapsody」を聴いてダメ出しをするシーンが出てきますが、その男こそ『ウェインズ・ワールド』のマイク・マイヤーズです。かなり変装しているので気付かない人も多かったと思いますが、そんな彼の「この曲で若者がヘッドバンギングできると思うか?」というセリフがまた笑いを誘うわけですね。

 映画館では『ボヘミアン・ラプソディ』のほかにも、前回少しご紹介した『エリック・クラプトン~12小節の人生~』やウィットニー・ヒューストンのドキュメンタリー映画『ホイットニー オールウェイズ・ラヴ・ユー』、僕が字幕を監修した『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』など、このところ音楽映画が立て続けに上映されていますから、そちらもぜひご覧ください。そして、音楽を聴くのは楽しいということを多くの人たちに再認識してもらえれば嬉しいです。

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『ボヘミアン・ラプソディ』(オリジナル・サウンドトラック)ユニバーサルミュージック UICY-15762
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オーディオ&ヴィジュアル誌『HiVi』の試聴室で、マルチ・チャンネル再生を楽しむバラカンさん。「空間全体で音が鳴っているみたい!」

Live Review

楽曲の良さも光った大御所バンドの日本公演

THE ANIMALS at Shinjuku Marz 19-20.11.2018

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来日公演を行ったアニマルズの現メンバー。左から、ダニー・ハンドリー、ミック・ギャラガー、ロバート・ルイズ、ジョン・スティール

 今回の“ライヴ・レヴュー”は、予想以上に面白かったアニマルズのコンサートについてお話ししましょう。11月19日と20日に、新宿MARZというライヴハウスで行われた今回の来日公演の情報は、メンバーからもらったメイルで知りました。送ってくれたのは、キーボード奏者のミッキー・ギャラガーです。イアン・デューリーのバックであるブロックヘッズのメンバーとして知られ、彼はいまもこのバンドを続け、マネジャー役も兼ねています。実はブロックヘッズを今年のLive Magic!に呼べないかと思って、ミッキーとはやり取りをしていたんですね。これは実現しませんでしたが、「11月にはアニマルズのメンバーとして日本に行くから会いましょう」という連絡をもらったんです。アニマルズでの来日とは少し驚きましたが、いまはどんなメンバーでやっているのかと思って調べたら、オリジナル・メンバーはドラムのジョン・スティールだけ。あまり期待せずに観に行ったんですが……。

 ライヴが始まる前に、楽屋でミッキーにいろいろな話を聞いて、面白いことが分かりました。1965年、アニマルズの初代キーボード奏者のアラン・プライスがバンドを脱退したあとに、半年ほどミッキーがメンバーとして加わっていたんです。彼は当時、まだ二十歳そこそこ。一体どういうことなのかと思ったら、なかなか面白いエピソードがありました。

 アニマルズの代表曲「朝日の当たる家」はトラディショナル・ソングが元になっていて作曲者は不詳です。こういうケースだと、そのレコードの印税は編曲者として届けた人に入ります。この曲の編曲は、メンバー全員で行ったそうなのですが、レコード会社の担当者が著作権登録をする際、全員の名前を書くのが面倒だったのか、書くスペースがなかったのか(笑)、アラン・プライスの名前だけを記入したそうです。その「朝日の当たる家」は大ヒットしましたから、アラン・プライスには相当な額の小切手が届きました。これはしめたものと思った彼は、それまで手が出なかったハモンド・オルガンを買い、自分のバンドを組むことを決めて、そのままアニマルズを辞めてしまうのです。それにしてもひどいのは、他のメンバーには全く相談せず、勝手にバンドを去ってしまったことでしょう。何も知らない他のメンバーはそのとき、スカンディナヴィアでのツアーに向かうためにヒースロー空港に集まっていました。でも、アランは来ません(笑)。そこでようやく、彼が辞めたことを知るんですね。ツアーを目前に控え、彼らは急いで代わりのキーボード奏者を見つけなければなりません。そこで白羽の矢を立てたのが、彼らと同じくニュー・カッスル出身の若者であるミッキー・ギャラガーだったんです。

 ミッキーは当時、すでにセミ・プロくらいのミュージシャンではあったようです。マネジャーが彼に会いに来て、「アニマルズのメンバーにならないか」と誘われたとき、「そりゃあ、喜んで」と答えたそうですが、ほとんどニュー・カッスルを離れたことのないような若者ですからパスポートを持っていなかったんですね。マネジャーはそのまま彼をロンドンに連れて行き、特別な申請をしてすぐにパスポートを発行してもらったそうです。それを持って彼はヒースロー空港に向かい、ストックホルムに飛ぶわけです。そこから約半年間、アニマルズのメンバーとして活動しました。アラン・プライスが辞めたとき、本当はデイヴ・ローベリーというキーボード奏者を後釜に据えようとしたらしいのですが、別のバンドでの活動があったため、すぐには抜けられないということで、彼が移籍できるまではミッキーが暫定的にメンバーを務めたというわけなのでした。

 ミッキーはその後、いろんな活動を行いますが、70年代の後半からはブロックヘッズのメンバーとして長く活動することになります。アニマルズには、15年ほど前から復帰していて、ライヴ活動も続けているそうです。だから、ミッキーはアニマルズのオリジナル・メンバーではないものの、それに近い存在だったことが分かりました。

 今回来日した残りのメンバーは、ギターとヴォーカルのダニー・ハンドリー、ベイスとヴォーカルのロバート・ルイズです。ダニーはニュー・カッスルではないけれどイングランドの北の方の出身で、ロバートはアメリカ人。二人とも演奏力があって、歌も声量が豊富で良かったですね。アニマルズはとにかく、曲がいい。めちゃくちゃいい曲が多いんです。1960年代のバンドの中でも相当にいい楽曲に恵まれていたことを、このライヴを観て改めて感じました。全員がオリジナル・メンバーはではないけれど、とても楽しめるコンサートでした。オリジナル・メンバーのジョン・スティールはいま77歳で、ミッキー・ギャラガーにしてももう73歳。観ておいてよかったです。

 アニマルズは、ビートルズやローリング・ストーンのすぐあとにデビューしたグルーブで、本格的なR&Bサウンドを聴かせ、当時からすごく刺激的な存在でした。エリック・バードンのドスの利いた感じのヴォーカルと、アラン・プライスのキーボードもよかったし、すごくしっかりしたバンドという印象でした。彼らの出身地であるニュー・カッスルはイングランドの北東部で、あと一歩でスコットランドに辿り着く港町で、石炭と造船で知られたところです。ロンドンからするとずいぶん遠く感じられますが、アニマルズによってようやくそこの顔となるバンドが現れたというものでしたね。

Recommended Album

往年のCSN&Yを彷彿とさせる素晴らしいハーモニー

David Crosby『Here If You Listen』

 デイヴィッド・クロズビーが新作『Here If You Listen』を発表しました。二つ前のアルバムに『Lighthouse』という作品がありましたが、ミュージシャンはそのときと同じ面子です。男女2人ずつ、デイヴィッド・クロズビーとスナーキー・パピーのリーダーのマイケル・リーグ、ベカ・スティーヴンズとミシェル・ウィリスの4人。ミシェル・ウィリスは、マイケル・リーグが注目しているシンガー・ソングライターで、彼のレーベルから『See Us Through』というアルバムを出しています。本作『Here If You Listen』はもう、“クロズビー、スティーヴンズ、ウィリス&リーグ”とでも呼びたくなるような、往年のCSN&Yに匹敵するような素晴らしいハーモニーを聴かせ、全編アクースティックな感じでやっています。最後に「Woodstock」を歌っているほかはみんなのオリジナル曲ですが、どの曲もいいし、歌も素晴らしい。すでに77歳になっているデイヴィッド・クロズビーはこのところ年に1枚はアルバムを出し続けていて、めちゃくちゃ元気なんですよね。最近のアルバムはどれも出来がいいのですが、中でも今回の『Here If You Listen』は本当に素晴らしい。今年の年間ベストはもうリストを送ってしまったけれど、もう少し早く出ていたら選んでいたかもしれません。タイトルは、“あなたが聴けば、ここにいます”というものですね。

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『Here If You Listen』

PB’s Sound Impression

天井からも音が鳴る! 最新のサラウンド環境で音楽を堪能する
「さり気なく立体的で、とてもふくよかなサウンドです」

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左から、ナスペックの大中和昭さん、バラカンさん、ナスペックの庵吾朗さん

 ここからは、バラカンさんにお持ちいただいた作品をサラウンドでお楽しみいただきたいと思います。この部屋のスピーカーはMONITOR AUDIOの最上位機種、Platinum Series IIで揃えた5.1chに加えて、天井にハイト・スピーカーを4つ設置した、5.1.4chのシステムです。これらを駆動するのはSTORM AUDIOの新しいAVアンプISP 3D.16 ELITE(AVプロセッサー)とPA16 ELITE(AVパワー・アンプ)です。このフランスのAVアンプは、Dolby Atmosやdts Xのほか、新しいサラウンド・フォーマットとして注目されているAuro(オーロ)-3Dにも対応していまして、今日はバラカンさんに、このフォーマットが提唱する“イマーシヴ・オーディオ”の世界を体験していただきます。

 Auro-3Dが面白いのは、“Auro-Matic”という機能によって、過去の5.1chで収録された映画のサラウンド作品も、聴感上、極めて自然な感じで天井のスピーカーを鳴らすことが出来るんです。この機能はまた、レコードやCDなどのモノラルやステレオのソースや5.1chのライヴ音源などにも有効ですので、今日はそのあたりもお楽しみください。

PB 分かりました。では、先ほどのデイヴィッド・クロズビーの新作『Here If You Listen』から聴きましょうか。これは通常のCDだから当然ステレオですが、ハーモニーが素晴らしいから、サラウンドで聴くのもいいと思います。曲は「Vagrants of Venice」にします。

大中 ではこの曲を、始めは下の5つのスピーカーで再生して、途中からハイト・スピーカーを足していきましょう。

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「今日はマルチ・チャンネルはもちろん、ステレオ音源も“Auro-Matic”をかけることで聞こえ方がどう変わり、いかにライヴ感が広がるかをお楽しみいただきたいと思います」と庵さん

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試聴◎デイヴィッド・クロズビー
「Vagrants of Venice」

アルバム『Here If You Listen』より

 従来の疑似サラウンドと違うのは、リア・スピーカーから不自然に歌がたくさん聞こえてきたりはしないことです。あくまでもステレオの延長で聴かせるようになっています。

PB うん、なるほど。すごくさり気なく立体的になっている感じですね。言葉では言い表しにくいけど、とてもふくよかなサウンドになりました。でも、音源はステレオなんですよね。

 AVアンプは元々、映画ファンを中心に広まってきたと思いますが、Auro-3Dにも対応することで、音楽が好きな人にも楽しんでいただけるサラウンド環境を提供しやすくなったと思います。

PB ではここで、元ちとせの『元唄(はじめうた)~元ちとせ 奄美シマ唄集~』から7曲目、民謡クルセイダーズと共演した「豊年節」を聴いてみましょう。目下、すごく好きな曲なんです。最近、出たばかりのミニ・アルバムで、7曲すべてが奄美の島唄で、中孝介も参加しています。

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試聴◎元ちとせ「豊年節」

アルバム『元唄~元ちとせ 奄美シマ唄集~』より

PB ほとんどの曲は歌と三線だけで、それはそれでいいのですが、最後にこんなサウンドが出てきて(笑)、何だろうと思ったら民謡クルセイダーズだったんでびっくりしました。Auro-Maticで聴くと、この曲もすごく広がりで出ていましたね。

 続いては、ジミ・ヘンドリクスの50周年記念盤『Electric Ladyland』です。デモやスタジオのアウト・テイク、ライヴ音源などを収録した3枚のCDに加え、Blu-rayディスクには『Electric Ladyland』のステレオと5.1サラウンドがハイレゾで収められています。今日はその中の「Rainy Day, Dream Away」から「Moon, Turn The Tides...Gently Gently Away」までの3曲を5.1chサラウンド・ミックスで聴いてみたいと思います。

大中 では、このサラウンド・ミックスでもAuro-Maticをかけてみましょう。

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試聴◎ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス
「Rainy Day, Dream Away」, 「1983…(A Merman I Should Turn To Be)」, 「Moon, Turn The Tides...Gently Gently Away」

アルバム『Electric Ladyland』より

PB オリジナルのレコードではSide3に収録されていた、ちょっとした組曲のような3曲でした。ジミ・ヘンドリクスはSFが好きで、宇宙の音というものに一生懸命になっていて、エンジニアのエディ・クレイマーがテープの走行速度を変えたり、逆回転にしたりして、このようにいろんなエフェクトを作っていたんですね。この『Electric Ladyland』は1968年に出ましたが、ニュー・ヨークにできたばかりのレコード・プラント・スタジオで最初に行われた録音がこのアルバムだったようです。しかも、このスタジオにはまだ2台しかなかった12トラックのマルチトラック・レコーダーの1台が導入されていたと言われます。当時はロンドンのスタジオでも4トラック録音しかできなかった時期だから、ヘンドリクスは喜んでこれを使い、いろんなギターをオーヴァー・ダビングしていったそうです。50年前の録音ですが、いま聴いても音のクオリティは驚くほどいいなと思いました。

 そして、この5.1chサラウンド・ミックスはそのエディ・クレイマーが手がけています。Auro-Maticでは、すごくシネマティックな感じがしました。そもそも音作りからしてそう意識していたと思うけど、まるで映画を観ているような雰囲気でしたね。「1983…(A Merman I Should Turn To Be)」は14分近くもあったりして、ちょっと長すぎる感じもあるけど、まぁ、この時代の産物らしいというところでしょう。

大中 サラウンド・ミックス自体は、どのようにお感じなりましたか。

PB サラウンド・ミックスは普段、家では聴けないので、今回初めてちゃんと聴くことができましたが、案外面白かったです。作品にもよりますが、リア・スピーカーがうるさく鳴ることもなかったと思います。そして、Auro-Maticをかけると音場が立体的になって、空間がもう少し大きくなる感じでした。この機能も、不必要に後ろを意識させないのは正解だと思います。後ろや上が目立つと妙な感じになってしまうでしょうからね。

 そして今日は、ジョン・レノンの『Imagine:The Ultimate Collection』も持って来ました。こちらもサラウンドを意識したミックスが施されているようですが、どういうものか興味があります。

大中 では、早速聴いてみましょう。

PB 『Imagine:The Ultimate Collection』には、アウト・テイクなどを含む4枚のCDと、Blu-rayが2枚もありますね(笑)。Blu-rayの中にはステレオとサラウンドのハイレゾ、クアドラ・ソニック・ミックス、つまり4チャンネル・スピーカー用に作られた昔のミックスのリマスターもハイレゾで入っています。ここでは、本編の5.1chサラウンドで、まずは「Imagine」と「Gimme Some Truth」を聴こうかな。

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試聴◎ジョン・レノン
「Imagine」, 「Gimme Some Truth」

アルバム『Imagine:The Ultimate Collection』より

PB んー、これはかなりハマりますね。

 上や後ろのスピーカーが加わるんだけど、かえってスピーカーを意識しなくなるという感じでしょうか。

PB そうそう。この試聴室はそこそこの広さですが、空間全体で音が鳴っているみたいで、やっぱりコンサートや映画を観ている感じになります。もちろん、そのような発想でデザインされたものなのでしょうけれど、すごく効果がありますね。例えば、ちょっと広い会場でのレコード・コンサートでこういうシステムを使うことができれば、みんないい印象を受けると思いますね。でも、いい音で聴けるスイート・スポットはあまり広くないのかな。

 このAVプリ・アンプISP 3D.16 ELITEは、導入時にサウンド補正用の測定を9ヵ所で行うのですが、その際、試聴ポイントの設定をお一人様用と家族用、さらに映画館仕様と3パターンから選ぶことができるんですよ。もちろん、お一人様用はいちばん効果が出るように鳴るんですが、ソファで横に並んだり、広い部屋なら3列に分かれても十分楽しめるようになっています。

大中 以前のサラウンドは、いかにもそのスピーカーから音が出ているイメージでしたが、Auro-3Dはそのあたりはとても自然で、全体的に包まれているような感じの空間表現ができるのが特徴です。

 Auro-3Dはポルシェにも採用されているんですが、その理由としてはやはりAuro-Maticの効果が大きかったようですね。僕らとしても、Auro-Maticはぜひ音楽ファンの皆さんに試してほしいと思っています。例えば、昔のレーザーディスクの音楽作品などもあらためて楽しめると思います。

PB LDはうちにまだもたくさんありますよ(笑)。

大中 映像もストリーミングで楽しむことが多くなっていますが、Auro-3Dならどんなソースでもマルチ・チャンネルで楽しめます。

 従来のサラウンドの規格は、そのフォーマットのソフトが揃ってこないと楽しめなかったのですが、Auro-3DはAuro-Maticによって過去の5.1chのDVDでもCDでも再生できて、気軽にイマーシヴな体験を味わえるのが面白いところで、さらにモノラル音源までサラウンド化してくれるのは、新しい音楽体験ではありますよね。

PB さて、次はいよいよ『The Beatles』(White Album)の50周年記念ニュー・エディションですね。僕はこのスーパー・デラックス・エディションでは、イーシャー・デモやスタジオ・セッションがすごく面白くてそればっかり聴いていたので(笑)、まだ本編のリミックスをちゃんと聴いていないんですよ。では、Disc1の頭から「Back in the U.S.S.R.」と「Dear Prudence」を続けて聴きましょうか。

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試聴◎ザ・ビートルズ
「Back in the U.S.S.R.」,「Dear Prudence」

アルバム 『The Beatles』より

PB これがただの2chステレオ? お-、すごいね。今回はリミックスだから、楽器や歌のバランスも多少は変えているわけだけど、これはいいねぇ。元になっているのは多くて8chのマルチ・テープのはずだけど、これだけ深みのある音を引き出しているのは大したものですね。

 新録音みたいに聞こえましたね。では、「Dear Prudence」のサラウンド・ミックスも聴いてみましょう。これも、途中からAuro-Maticをかけて、上のスピーカーも足してみます。

PB そなるほど~。やっぱり、先ほどのデイヴィッド・クロズビーの『Here If You Listen』もそうだけど、ハーモニーが「ワー」っと広がるような曲ではAuro-Maticの効果がすごくよく出ますね。

 2017年に50周年記念盤が出た『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』はまだモノが中心の時代のレコードだから、僕は未だにモノ・ミックスがしっくりくるけど、同じくジャイルズ・マーティンが手がけたステレオ・ミックスは確かに今風のサウンドになっていて、それはそれで悪くない。いまやビートルズを知らない若い音楽ファンもたくさんいます。そういう人たちにいま、ビートルズを聴かせるには時代に即したサウンドになっていないと、彼らの耳には馴染みにくいかもしれません。1960年代の音は、いまの音しか知らない人にとってはそういう意味で無理がある場合もある。僕らの世代は1960年代の音楽をいま聴いても問題なく楽しめるけど、若い人に無理なく聴いてもらうには、今風なサウンドになっているほうがいいのでしょう。

 この『White Album』のステレオ・ミックスは、その意味でも聴きやすいだろうと思います。このアルバムまではモノ盤が出ていて、スーパー・デラックス・エディションにはモノ・ミックスも収録されているけど、僕にしてもステレオ・ミックス自体に違和感はありません。

大中 せっかくなので、「Blackbird」も聴いてみていいですか。これをAuro-Maticで聴くとどうなるのか、興味があります。

PB いいてすね! 僕もそれを聴きたいと思っていました。そしてもう1曲、「Julia」を続けて聴いてみたいと思います。これは名曲です。

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試聴◎ザ・ビートルズ「Blackbird」, 「Julia」

アルバム 『The Beatles』より

PB とても好きな曲ですが、これは2chステレオでも十分に楽しめました。ただ、ビートルズの曲と言っていいかどうかは僕には微妙で、どちらかというと「Julia」はジョン・レノンの曲で、「Blackbird」はポール・マカートニーの曲という感じもする。『White Album』とはそんなアルバムですね。もちろん、「Martha My Dear」や「I'm So Tired」、「Revolution 1」など好きな曲はほかにもありますが、ジョージ・マーティンも言っていたように、僕はこのアルバムは1枚にまとめても良かったんじゃないかとも思っています。まぁ、あくまでも僕の勝手な意見でございます(笑)。

音楽と親和性の高いサラウンド

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PB いまから20年以上前のことですが、自宅を建てるときに設計士にどうするかと尋ねられたのが、インターネットをどの部屋でもできるような通信環境の整備と、もう一つがホーム・シアターでした。結局、どちらも予算の都合で見送ったのですが、友達の家でホーム・シアターを体験させてもらうとサラウンドは本当に心地いいから、やっぱりあのとき造っておけば良かったなと思ったりしています(笑)。最近はサラウンド・ミックスを収録する作品も増えているので、マルチ・チャンネル・オーディオは映画ファンだけでなく、音楽好きにとっても気になるところでしょう。この試聴室ほどの装置を導入するのはなかなか難しいと思うけれど、もう少しコンパクトなシステムなら、やってみたいという音楽ファンも多いのではないでしょうか。ただ、いまある部屋をマルチ・チャンネルにすると、スピーカーやケーブルがごちゃごちゃしてしまうので、特に女性には敬遠されるかもしれません。

 MONITOR AUDIOのカスタム・インストールでは、スピーカーを壁に埋め込んだり、絵を飾るような感じで壁掛けにしたりすることもできますから、これなら奥様にも安心していただけるのではないかと。

大中 いいステレオやサラウンドに興味を持ってもらえるという意味では、映画はもちろん、マルチ・チャンネルに対応した音楽プログラムも充実しているNetflixやAmazonといった映像ストリーミング配信が身近になってきたりと、いろんなきっかけに恵まれた、いい時代でもあります。もちろん、パッケージ・ソフトでもライヴものをはじめ、音楽の映像タイトルはたくさん出ていますしね。

PB 2014年に開催した第1回目のLive Magic!で、トーキング・ヘッズの『Stop Making Sense』の爆音上映を行おうと思って権利者に連絡したら、「それならBlu-rayを使ってください」って言われて、急いでAmazonで購入して上映しましたが(笑)、あれは音も良かったです。

大中 Live Magic!のライヴ映像や音源をリリースするご予定はないのですか。

PB 実はいま、2018年のヘッドライナーだったジョン・クリアリーのDVDを出す予定で動いています。

大中 そうですか。もし、そういった作品の試写会や試聴会を催すなら、私たちもまた協力させていただきますので、どうぞお声がけください。

PB それはぜひお願いします。Live Magic!に来られなかった人にもこの音楽フェスティヴァルの良さを分かってもらえるようなデモンストレーションは、いずれやりたいと思っていたところなんですよ。

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MONITOR AUDIOスピーカーのカスタム・インストールの例

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 バラカンさんもおっしゃるとおり、最近はライヴなどを収録した音楽ものの映像作品にいいタイトルが目に付くようになって、個人的にもマルチ・チャンネルに対する興味が昔よりも強く沸いてきました。マルチ・チャンネルは音楽好きにとっても見逃せないものになってきているような気がします。

PB 以前、SACDのマルチ・チャンネルをいろいろ試聴する機会があったんですが、そのときに感じたのは、音楽ものでも確かにサラウンドに向いている作品はあるということでした。1960代のストーンズなんかは特にサラウンドにする必要はないと思ったけど、例えばサンタナの『Caravanserai』やウェザー・リポートの『Heavy Weather』はわりと相性が良くて、これは聴き応えがあるなと。そして、今日の試聴では、そんなにサラウンドを意識することなく、普通のステレオと同じような感覚で、より立体的な音場を感じることができました。いかにもサラウンドという嫌味な感じはまったくしませんでしたね。音楽ファンに受け入れてもらうには、そんなところも大事なのかもしれません。

 Auro-3DのAuro-Maticは、まさにそういう意図で設計されていますから、ぜひ音楽ファンの皆さんにも体験していただきたいですね。

PB 今日聴いたジミ・ヘンドリクスの『Electric Ladyland』、ジョン・レノンの『Imagine:The Ultimate Collection』、そしてビートルズの『The Beatles』はどれも最近出たばかりですが、いずれにもサラウンド・ミックスが収録されていました。『Electric Ladyland』の5.1chはもっと音がグルグル動き回ったりするのかなと思ったけど、そうでもなくて、どれもわりと聴きやすかったですね。僕のように、せっかくサラウンド・ミックスもあるのに再生する装置がないからステレオ・ヴァージョンしか聴いていないという人はたくさんいるはずだけど、一度でも実際に聴いてみればみんな納得すると思いますけどね。以前のDVD Audioも、DVDプレイヤーでしか再生できなくて、テレビのスピーカーで聴いたりしていたけど、それではなんのための高音質やサラウンドなのか分からない(笑)。

 今日お聴きいただいたのはハイエンドなスピーカー・システムでしたが、同じくMONITOR AUDIOにはリーズナブルなシリーズも揃っています。広さは6畳間でも十分ですので、とにかくやり始めていただければサラウンド再生の面白さに気付いていただけると思います。

PB そのうちどこかで、このA Taste of Musicでもマルチ・チャンネルのイヴェントができるといいかもしれないですね。

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[上]Auro-3Dに対応し、どんなソースもイマーシヴに変換する“Auro-Matic”機能を搭載するAVプロセッサーのISP 3D.16 ELITEは、最先端のルーム補正技術“Dirac Live”も備える。「このモデルは、今後新しい規格が出てきても、背面のスロットで基板を交換するだけで対応できますので、長くご愛用いただけるのも特徴です」(庵さん)
[下]1chあたり200W(8Ω)の出力を実現する16chのパワー・アンプ。高効率なクラスD技術により、最高20kHzまでの全出力帯域幅を確保。どんなスピーカーも手なずける駆動力とクリーンなサウンドを誇る
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フロントLRの真ん中に配置されたセンター・スピーカーは3ウェイ構成となるMONITOR AUDIO PLC350Ⅱ
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リアのLRはコンパクトなブックシェルフ型のMONITOR AUDIO PL100Ⅱ
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CDの再生に使用したのはOPPOのユニバーサル・プレーヤーUDP-205
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MONITOR AUDIOのハイエンド・モデルPlatinum Series IIで揃えたサラウンド・スピーカー。写真はフロントのLRに用意されたPL300Ⅱ。リスニング・ルームを満たすパワーと細部の緻密な再現性を両立する
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サブ・ウーファーは38cmのドライバーを2基搭載するPLW215Ⅱ
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ハイト・スピーカーはMONITOR AUDIOのカスタム・インストール・シリーズの天井埋め込み型モデルC265を4基使用
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この日の試聴ディスク。『The Beatles』のスーパー・デラックス・エディション(ユニバーサルミュージック UICY-78856)と 『Electric Ladyland 50周年記念盤』(ソニーミュージック SICP-5917~20)、 『Imagine:The Ultimate Collection』(ユニバーサルミュージック UICY-78855)の各ボックスには、いずれも最新のステレオ/サラウンドのリミックスやリマスターのほか、デモやアウト・テイクといった多くの未発表音源も多数収録するなど、ファン垂涎の内容となっている。手前は『元唄(はじめうた)~元ちとせ 奄美シマ唄集~』(Augusta Records UMCA-10062)
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ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス『Electric Ladyland』 の50周年記念盤には、オリジナルのアナログ・テープからリマスターされた本編のほか、未発表のデモやアウト・テイク、ライヴ音源も収録。Blu-rayには、ステレオ/サラウンド・ミックスのハイレゾ音源、長編のドキュメンタリー映像も!
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試聴システム

AVプロセッサー:STORM AUDIO ISP 3D.16 ELITE
AVパワー・アンプ:STORM AUDIO PA16 ELITE
スピーカー:MONITOR AUDIO PL300Ⅱ×2(フロントLR)、PLC350Ⅱ(センター)、PL100Ⅱ×2(リアLR)、PLW215Ⅱ(サブ・ウーファー)、C265×4(シーリング)
ユニバーサル・プレーヤー:OPPO UDP-205
プロジェクター:SONY VPL-VW1100ES

取材協力◎ステレオサウンド

https://www.stereosound-store.jp