A Taste of Music Vol.272018 08

Contents

◎Recommended Albums
 
Rhiannon Giddens『Factory Girl』, Derek Trucks Band『Already Free』, Maalem Mahmoud Gania『Colours Of The Night』, Big Bill Broonzy『Big Bill Broonzy Sings Folk Songs』, Buena Vista Social Club『s/t』

◎PB’s Sound Impression
 
Recommended Album × Goldring

◎Coming Soon
 
“Peter Barakan's LIVE MAGIC! 2018”

構成◎山本 昇

Introduction

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 今回のA Taste of Musicは渋谷にやってきました。ここはなんと、Vol.23で訪問した北名古屋市のオーディオ・ショップ「OTAIAUDIO」(オタイオーディオ)の姉妹店「OTAIRECORD」(オタイレコード)が運営する音楽教室「OTAIRECORD MUSIC SCHOOL "ISM"」で、DJや作曲について学べるそうです。DJと言えばつい先日、新聞の記事で読んで驚いたのですが、最近では世界的に女性のDJが増えていて、ヨーロッパではかなりのスターDJも登場しているようですね。まぁ、ヨーロッパでは政治でも企業でも、女性がどんどん進出しているから当然の流れではあるのでしょう。日本ではいまだにガラスの天井が厚いと聞きますね。ちなみに、「ガラスの天井(Glass Ceiling)」とは、上が透けて見えるから行けそうなのに実際には見えない天井に阻まれて昇ることができないという意味で、英語でよく使われる表現です。社会的なマイノリティや女性が正当に評価されない状態を表しています。

 さて、今日はここにナスペックが輸入するハイエンド・オーディオを持ち込んで、アナログ・レコードを中心に試聴を行うことになりました。そして、このシステムに合わせて、レコード再生に欠かせないカートリッジを4種類も用意してくれているそうなので、その聴き比べもやってみたいと思います。今回もどうぞ最後までお付き合いください。

 というわけで今日は、そんなオーディオ・システムで僕が聴いてみたいと思う、音も良さそうなお勧めレコードを持ってきました。リアノン・ギデンズの『Factory Girl』、デレク・トラックス・バンドの『The Derek Trucks Band』、マーレム・マフムード・ガニアの『Colours Of The Night』、ビッグ・ビル・ブルーンジー『Big Bill Broonzy Sings Folk Songs』、そしてブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブの『Buena Vista Social Club』です。まずはいつものように、これらを一通り聴きながら、それぞれのアルバムについて僕なりに解説していきましょう。

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バラカンさんが持参したアナログ・レコード

Recommended Albums

Tボーン・バーネットが惚れ込んだ才女のEP盤

Rhiannon Giddens『Factory Girl』

 リアノン・ギデンズのEP『Factory Girl』(2017年)を持ってきたのは、アナログで所有している彼女のアルバムがこの10インチ盤だけだったからなのですが(笑)、2015年に出たこの作品にはTボーン・バーネットがプロデュースしたセッションが収録されています。同じくTボーン・バーネットが手がけた『Tomorrow Is My Turn』(2015年)というアルバムが出ていますが、そこに収まり切らなかった5曲をアナログだけで出したのがこのEPというわけです。彼女は元々、カロライナ・チョコレート・ドロップスという黒人によるフォーク・グループのメンバーだったんですね。フォークと聞くと白人の音楽だと思い込む人が圧倒的に多いと思いますが、実はそうではなく、時代を遡れば白人にも黒人にもフォーク・ミュージックがあり、アメリカではいま、それらを合わせてルーツ・ミュージックと呼んでいるんですね。カロライナ・チョコレート・ドロップスは、昔のフォーク・ソングが中心ではあるものの、わりと新しい曲も歌っていてとても面白い存在でした。

 そんな中、リアノン・ギデンズは歌も素晴らしいしルックスもいい。バンジョーとギターとフィドルも上手に演奏します。『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』という映画がありましたが、その音楽の世界をコンサートで再現しようという企画がニューヨークで行われました。彼女もそこに招かれて、この模様はライヴ・アルバムとして発表されているのですが、その音楽監督がTボーン・バーネットでした。彼はそのコンサートでリアノン・ギデンズに惚れ込み、「あなたのアルバムを作りたい」と申し出て作ったのが『Tomorrow Is My Turn』です。このアルバムがきっかけで、彼女はソロ・アーティストとしても注目されるようになり、来日も果たしました。今年はイギリスの「ケインブリッジ・フォーク・フェスティヴァル」という昔からやっている有名な音楽祭にゲスト・キュレイターとして抜擢されるほど、そうした音楽の歴史にも詳しいんですね。実際にはフォークだけではなく、いろんなタイプの曲を歌いますが、いま聴いた「That Lonesome Road」は、シスター・ローゼタ・サープという初期のゴスペル界の大スターが編曲したトラディショナル・ソングです。このシスター・ローゼタ・サープはちなみに、1940代に黄金期を迎えたシンガーですが、エレキ・ギターをバリバリ弾きながら歌ったり、派手な生活をしていたり、保守的な時代にあって女性の新しい在り方を示した先駆者でもありました。

 リアノン・ギデンズの「That Lonesome Road」も編曲が面白いですね。彼女の歌とコリン・リンデンのエレクトリック・ギターで静かに始まって、だんだんとアクースティク・ベイスやドラムズが乗っかってくる。コリンはTボーン・バーネットがセッションによく起用するギタリストです。ベイシストのデニス・クラウチはフォークやカントリーの分野で活動する素晴らしいミュージシャンです。ジェイ・ベルローズはいまのロス・アンジェレスで最もクリエイティヴなセッション・ドラマーの一人です。フィドルのゲイブリエル・ウィチャーはパンチ・ブラザーズのメンバーです。そして、タンバリンで参加しているジャック・アシュフォードはその昔、モータウンのファンク・ブラザーズにいた人だから(笑)、もうすでにおじいさんですね。アクースティック・ギターのハビー・ジェンキンズはカロライナ・チョコレート・ドロップスのメンバーでもあります。『Tomorrow Is My Turn』と『Factory Girl』では、ジャンルを超えた20人以上のミュージシャンが、かなり面白い集まり方をしていますが、それもTボーン・バーネットの成せる業でしょう。すごく有機的で、雰囲気もいいですよね。

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Rhiannon Giddens『Factory Girl』

ホーム・スタジオで手作りされた
名作のアナログ盤

Derek Trucks Band『Already Free』

 デレク・トラックスが率いるデレク・トラックス・バンドは、彼が奥さんのスーザン・テデスキと共に2010年から新たに結成したテデスキ・トラックス・バンドより前から活動していたグループです。デビュー・アルバムは1997年の『The Derek Trucks Band』で、2009年にデレク・トラックス・バンドとして最後となったこのスタジオ・アルバム『Already Free』が出る頃にはデレクの知名度も少しずつ上がってきていました。そんな彼は2006年に、エリック・クラプトンのワールド・ツアーのメンバーに抜擢されて、ほぼ1年間にわたって帯同したんですね。デレクはそのギャラを自身のスタジオ建設に注ぎ込みました。フロリダ州のジャクソンヴィルにある彼の家にはわりと広い土地があり、そこにホーム・スタジオを建てました。デレクのギター・テクニシャンのお父さんは、あのウッドストックのベアズヴィル・スタジオの設計をした人で、その青写真が全部残っていたので、そっくり同じデザインにしたそうです。やはりアナログのサウンドがほしいということで、ちょうどキンクスのレイ・デイヴィスが売りに出していたNEVEの古いコンソールを買って収めています。

 この『Already Free』は、そのスタジオで録音した最初のアルバムだと思います。当初はアナログ・レコードは出ていなかったのですが、後にミュージック・オン・ヴァイナルがレコードで再発しました。CDでは持っていたんですが、やっぱりアナログもほしくて買っちゃいました(笑)。

 このアルバムはわりとブルーズやゴスペルの曲が多いですね。元々そういうタイプの音楽が得意なバンドですが、他のアルバムではもうちょっとジャズ寄りの曲があったりもします。あまり知られていない、ブラック・ミュージックの古い曲も取り上げています。今日聴いた「I Know」は、ビッグ・メイベルという体の大きなR&Bの女性歌手が歌っていた曲です。僕はこのアルバムで初めて彼女の歌を聴き、好きになってオリジナルを調べたりしました。こうした選曲も、このバンドの面白いところですね。

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Derek Trucks Band『Already Free』

モロッコから届いた
元祖グルーヴ・ミュージック

Maalem Mahmoud Gania『Colours Of The Night』

 マーレム・マフムード・ガニアはモロッコのミュージシャンで、このアルバム『Colours Of The Night』(2017年)は、2015年に亡くなった彼の最後のスタジオ録音ということですね。ジャケットで彼が手にしているのはギンブリという楽器です。長方形の箱に細い棒を挿したような非常に素朴な弦楽器ですが、この楽器で彼らが演奏するのはグナワというスタイルの音楽で、一種のトランス・ミュージックと言っていいと思います。かつてサハラ以南のアフリカの国々から、奴隷としてモロッコなど北アフリカに連れてこられた人たち。グナワは、そんな彼らが持っていた音楽スタイルとモロッコに元々あった音楽が合わさったような音楽で、他ではみられないものです。いま聴いたA面1曲目の「Sadati Houma El Bouhala」では、ギンブリのほか、カルカバとか呼ばれる打楽器も使われます。金属製の、カスタネットを二つ合わせたようなものを両手に持って演奏する、金属的な音が特徴の打楽器です。あとはバック・ヴォーカルというかコーラスの人たちが集まっています。まさに元祖グルーヴ・ミュージックといった趣のサウンドですね。

 このアルバムをアナログ・レコードで発売したのは、ハイヴ・マインド・レコーズというイギリスの小さなレーベルです。録音はカサブランカで行われました。ほかの曲もすべてこのような感じで、素朴なチャントとギンブリ、打楽器にバック・ヴォーカルで成り立っている音楽です。1曲はけっこう長くて、繰り返しが多い。生で聴いている人は体を動かしながら、だんだんトランス状態になっていくわけです。ある意味で宗教音楽でもあるんですね。ちなみに、モロッコのエッサウィラでは毎年、グナワ・フェスティヴァル(Gnaoua World Music Festival)が開催されていて、世界中からたくさんの人が集まって来るそうです。

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Maalem Mahmoud Gania『Colours Of The Night』

シカゴ・ブルーズの重鎮による
フォーク・ソング集

Big Bill Broonzy『Big Bill Broonzy Sings Folk Songs』

 ビッグ・ビル・ブルーンジーが生まれたのは19世紀の終わり頃だと言われていて、亡くなったのは1958年のことでした。このレコード『Big Bill Broonzy Sings Folk Songs』(1962年)も、彼がこの世を去ったあとにLPとして発売されたものです。彼の晩年、おそらく1950年代に行われたいろんなセッションから集めたもので、歌っているのは主にフォーク・ソングです。どちらかというとブルーズ・シンガー、ブルーズ・ギタリストとして有名なビッグ・ビル・ブルーンジーですが、彼の世代の歌手はブルーズだけを歌っていればいいというわけではなく、お客さんが求めるものは何でも歌えなくてはならず、フォークもブルーズも、ポピュラー・ソングも何でも歌える人が多かったんですね。ビッグ・ビル・ブルーンジーはギターもすごく上手なミュージシャンでした。

 生まれたのはミシシッピ州ですが、地元やメンフィスでの活動後、早くからシカゴを拠点にしています。まだシカゴ・ブルーズと呼ばれていない時代から、いろんな人のバックでギターを弾き、1930年代~40年代には自分名義のレコードもかなりたくさん作っていました。そんな彼のレコードは世界的に発売されていて、ヨーロッパではコンサート活動もしています。イギリスでは50年代にライヴをよくやっていて、ジェフ・ベックやエリック・クラプトンら40年代生まれのミュージシャンで、後にギター・ヒーローとなるような人たちは10代でビッグ・ビル・ブルーンジーの音楽を聴いてブルーズに目覚めるんです。そういう意味でもものすごく大きな影響力を持った人ですね。

 このアルバムを僕が聴いたのは高校生のころで、当時からすごく好きなレコードでした。アナログ・レコードは、いまから2年ほど前にヴァイナル・ミー・プリーズというLPだけを出すリイシュー・レーベルによって再発されたものです。元々のレーベルは、いまからちょうど70年前の1948年に創立されたフォークウェイズ・レコードで、インディーズの草分けと言えるレーベルです。フォークやブルーズ、民族音楽といった分野の作品をたくさん録音した伝説のレコード会社ですね。この会社を創ったのはモーゼズ・アッシュという人で、彼が一人で経営していたんですが、80歳くらいになったときに、アメリカの国立博物館を運営するスミソニアン学術協会に売却され、いまでもほとんどの作品がカタログとして残されています。

 今日聴いたのは、かつてベシー・スミスが歌っていた「Backwater Blues」です。1927年に起こったミシシッピ川の大洪水について書かれたブルーズはたくさんあるのですが、この歌もその一つです。

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Big Bill Broonzy『Big Bill Broonzy Sings Folk Songs』

ライ・クーダーが手がけた
世界的大ヒット・アルバム

Buena Vista Social Club『Buena Vista Social Club』

 ブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブの世界的な大ヒット・アルバム『Buena Vista Social Club』(1997年)です。このアルバムを出したのはワールド・サーキットというイギリスの小さなレーベルで、ニック・ゴールドという人が基本的に一人でやっているような会社ですから、作品は年に数枚しか出ません(笑)。このレーベルが得意とするのは初めから西アフリカとキューバの音楽です。このアルバムも、当初はマリとキューバのミュージシャンが共演するという企画だったんです。

 まず、ニック・ゴールドがライ・クーダーにダメ元でプロデューサーを頼んだら、ライは喜んでその仕事を引き受けました。ただ、1990年代当時、アメリカ人は国が敷いている経済制裁のためキューバには絶対に行けないはずなのですが、そんなルールを無視してハバナに出向いたんですね。でも、ハバナに着いてみると、マリから来るはずだったミュージシャンたちの姿がありません。ビザかパスポートか、何にせよガクンとくるような理由でドタキャンされてしまうんです。「じゃあ、どうしよう?」ということで(笑)、新たにミュージシャン探しが始まります。

 昔からキューバの音楽を好きで聴いていたライ・クーダーが、好みのキューバ人ミュージシャンたちがまだ健在なのかどうかを現地のコーディネイターに調べてもらったら、生きてはいるけど、すでに引退して音楽活動はしていない人がほとんどであることが分かったんですね。それでも、連絡を取って集まってもらったら、例えばリュウマチで手が動かなかったピアニストのルーベン・ゴンザレスがだんだん弾けるようになってきたりして、なんとかできそうだということになり、大昔からハバナにあるスタジオで1996年にセッションが行われ、翌年にアルバムとして発表されました。

 僕はライ・クーダーが大好きだったから、その彼が関わったアルバムということで出てすぐに聴いて、1曲目の「Chan Chan」あたりはすぐにかっこいいなと思いました。古風なボレロのロマンチックなバラード曲なんかもあったりして、ちょっとセンチメンタルに過ぎる感じもありましたが、時間をかけて馴染んでくると、最初のそんな印象は消えていきました。ただ、1997年というとライ・クーダーは第一線で活動する感じではなくなっていたから、このアルバム『Buena Vista Social Club』も、一般的にはすぐに注目されたわけではありません。ところが、ヴィム・ヴェンダーズが同名のドキュメンタリー映画を撮ったことで状況が一変します。

 ライ・クーダーは1980年代からの一時期、生計を立てるために映画音楽をたくさん手掛けていたんですね。同じくヴィム・ヴェンダーズの『パリ、テキサス』(1984年)、ウォルター・ヒルの『ロング・ライダーズ』(1980年)や『クロスロード』(1986年)など多くのサウンドトラックを作っています。そんな中で、『Buena Vista Social Club』のアルバムを作り終えたライ・クーダーが、やはりヴェンダーズの映画でサウンドトラックを作っていたら、ライがキューバのおじいさんたちの話ばっかりするものだから、ヴェンダーズも興味を引かれるわけです。そこで、ライが『Buena Vista Social Club』にも参加しているイブライム・フェレールのソロ・アルバムを作るため、キューバにもう一度行ったときにヴェンダーズも同行します。結局、そのときに回したハンディ・カムであのドキュメンタリーが出来上がるんですね。1999年に映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』が公開されると、あのおじいさんたちの愛らしい姿にみんな惚れ込んで話題になり、2000年のアカデミー賞にもノミネートされました。そこでアルバムもようやく火が付くわけです。ワールド・ミュージックという極めて地味なジャンルですけど、異例の世界的な大ヒットとなり、ワールド・サーキットが臨時社員を雇わなければならないくらい大変なセールスを記録しました。

 キューバは社会主義国だから、レコーディング・スタジオも恐らく国営で機材もアナログが中心の古いものばかりだったはずです。でも、大昔のアメ車をちゃんとメンテナンスを施して走らせている国だから、きっとレコーディング用の機材も大事に使っていたことでしょう。『Buena Vista Social Club』を聴くと、そんな古いスタジオならではの温かみのある音がするような気がします。今日はその中から演奏に勢いのある「Candela」を聴きましたが、この曲はかなり古いものらしくて、『Buena Vista Social Club At Carnegie Hall』というライヴ盤でも取り上げられています。

 そして今年、2本目のドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』が公開されました。前回の映画やアルバムの成功でスターになったものの、高齢のため一人また一人と亡くなっていくメンバーたちの様子が描かれていますが、これもまたすごくいい映画です。そんな中、まだ現役の歌手として活動しているのが女性のオマーラ・ポルトゥオンドですが、彼女は今年の東京ジャズ・フェスティヴァルに参加します。ライヴ・ヴァージョンの「Candela」で、ラウードというリュートのような弦楽器でものすごいソロを聴かせるバラバリート・トーレス、キューバの新しい世代のジャズ・ピアニストであるロベルト・フォンセカも一緒に来日して、9月2日のNHKホールで共演します。バックを務めるのは日本のサルサ・バンド、オルケスタ・デ・ラ・ルス。これはかなり面白いコンサートになると思います。

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Buena Vista Social Club『s/t』

PB’s Sound Impression

4つのタイプのカートリッジを聴き比べ

「こんなに音が変わるとは! 楽しい驚きでした」

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ROKSANのアナログ・レコード・プレーヤーRadius 7やカートリッジを興味深そうに見つめるバラカンさん。ターンテーブルに乗っているのはリアノン・ギデンズのEP

PB さて、ここからはナスペックの庵(いおり)さんに進行をお任せして、カートリッジの比較試聴をしてみたいと思います。今日は4種類のカートリッジを持ってきてくれたんですよね。MM型とMC型は僕にも分かりますが、それ以外はどんなものなんですか。

 今回はMM型とMC型に加えてVM型とIM型を、すべてイギリスの老舗メーカーGoldring(ゴールドリング)の製品で揃えてみました。ここまで一通り聴いていただいたのがVM型のE3-MMです(編注:カタログ上の形式はMM型)。VM型とは、アナログ・レコードに溝を刻むカッター・ヘッドの構造と同じく45度の角度でV字型に二つのマグネットを配置したもので、MM型の仲間と言えると思います。いわゆるMM型は1042というモデルをご用意しました。IMとはインデュースド・マグネットの略です。お持ちしたのは2300というモデルで、IM型はMM型に比べて、大きなマグネットを配置しているといった特長がありますが、こちらも方式としてはMMの一種とされています。そして、MC型はEROICAというシリーズのH-MCです。このモデルは、MC型でありながら高出力に仕上げていますので、アンプを切り替える必要がありません。つまり、今日のカートリッジはすべて、フォノ・アンプをMMのポジションでお聴きいただけます。試聴は、いま聴いたE3-MM(VM)に続いて、1042(MM)、2300(IM)、EROICA H-MC(MC)の順番に行いたいと思います。価格は税別で、E3-MMが18,500円、1042が85,000円、2300が70,000円、EROICA H-MCが115,000円です。

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今回のシステムの主役はイギリスGoldringの各種カートリッジ。左から、EROICA H-MC、1042、2300、E3-MM

PB 分かりました。ところで、このGoldringというのはどんなメーカーなのでしょうか。イギリスにいた頃は、レコード針と言えばこの名前が思い浮かぶほど、僕にとっては馴染み深いブランドです。

 私も先日、イギリスの会社を訪問してきたのですが、すでに111年という長い歴史を持つメーカーです。息の長いメーカーの中には、途中までは軍需産業として運営されていたりもするのですが、Goldringは設立当初からオーディオに関わっているメーカーなんです。年表を見ると、ライト兄弟が人類初の有人飛行に成功したと言われる1903年から3年後の1906年に創業しています(笑)。その技術力は確かに素晴らしいもので、例えば自社のMC型なら50年前の製品でも全部直すと公言していますが、会社のそんな姿勢にも感心しました。聞くところによると、世界中の超ハイエンド・モデルのOEMも手掛けているらしいのですが、自社製品はいちばん高いところでも18万円くらいまで、安価なものは1万円台から用意されているというこの価格の幅も妥当だと感じます。Goldringは、私たちとしても力を入れて応援したいブランドなんですよ。

 というわけで、今回は、同じメーカーでそれぞれのカートリッジを聴き比べていただけますので、方式の違いも分かりやすいのではないかと思います。ちなみに、ここまでに聴いていただいたのはいちばんリーズナブルなE3-MMで、キャラクターとしてはどちらかと言うと冷静に音楽を描写するタイプです。やや俯瞰気味に聴かせる、カチッとした音が特徴です。

PB カートリッジのほかは、どのような機材なのですか。

 OTAIAUDIOさんの試聴室で行ったVol.23のときと同じく、アナログ・レコード・プレーヤーはROKSAN(ロクサン)のRadius 7です。このトーンアームはユニピボット・タイプと言いまして、カートリッジによるキャラクターの違いがストレートに伝わります。プリ・メイン・アンプとCDプレーヤーはROKSANのK3 IntとK3 CD、そしてスピーカーはMonitor Audio(モニターオーディオ)のSilver300をご用意しました。つまり、今回もすべてイギリス製でのシステム構成となります。

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輸入商社ナスペックの庵 吾朗さん。この日の試聴システムを丁寧にセッティングしてくれた

PB では聴き比べは、曲中で展開があることから、デレク・トラックス・バンド『The Derek Trucks Band』からの「I Know」、リアノン・ギデンズ『Factory Girl』からの「That Lonesome Road」をメインに進めていきたいと思います。

 比較試聴の前に一つご提案がありまして。Monitor AudioのこのスピーカーSilver300には背面にバスレフ・ポートが二つ開いているのですが、今日のセッティングではどうしても後ろの壁がかなり近くなってしまいます。すでに一つの穴は専用のスポンジのキャップで塞いでいるのですが、いま聴いた感じですと、もう一方の穴も塞いだほうがいいかもしれません。バスレフ・ポートを両方とも塞いだ状態で、ちょっと確認していただけますか。

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Monitor AudioのSilverシリーズに採用されているバスレフ・ポート。特徴的なポート内の溝がポート・ノイズを減少させ、低域の高速なレスポンスに貢献しているという

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リアノン・ギデンズ「That Lonesome Road」を試聴

カートリッジ:Goldring E3-MM

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PB こっちのほうが聴きやすいかな。どう変わったんですか。

 スピーカーのユニットは前後に動くとその後ろ側の空気も一緒に動きます。その処理をキャビネットの内部で処理するのが密閉型で、このSilver300のように後ろに穴を開けて空気を逃がすことでバランスをとる構造のスピーカーをバスレフ型と言います。その穴を完全に埋めてしまうとおかしな音になってしまうのですが、このスポンジはある程度は空気を通します。設置するお部屋の事情で壁のすぐ近くに置かなければならず、低域が必要以上に膨らんでしまう場合に備えて、このスポンジが付属しているんです。

PB ただ、両方とも塞ぐと、パンチがちょっと弱くなったかな。

 低域の膨らみが取れてすっきりしますから、クリアさは上がるんですが、押し出し感は若干減るんですよね。

PB なるほど。どっちを取るか……。どっちも悪くないけどね(笑)。では今日はいろんなレコードをかけるので、クリアさを優先させることとしましょう。

 分かりました。では、歴史あるGoldringの中でも息の長いMM型カートリッジの1000シリーズから、1042を聴いていただきます。

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デレク・トラックス・バンド「I Know」を試聴

カートリッジ:Goldring 1042

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PB ハハハハッ。全然違う(笑)。このカートリッジはすごくパンチが利いてますね。

 そうですね。先ほどのVM型のE3-MMがわりと理路整然とすっきりした印象なのに対して、このMM型の1042はグッと迫ってくる感じがあります。E3-MMは今回試聴する中ではいちばんリーズナブルな製品で、対応力が高くどんなジャンルにも合わせられるのですが、おっしゃるとおり、1042に換えたときのパンチ力が増した感じは非常に印象的でしたね。

PB こんなに違うのかと、ちょっとびっくりしました。E3-MMも、最初に聴いたときは何の問題もなく、レコードらしい、いい音だなと思ったんですけどね。では続けて、リアノン・ギデンズも聴かせてください。

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リアノン・ギデンズ「That Lonesome Road」を試聴

カートリッジ:Goldring 1042

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PB ヴォーカルもこっちのほうがいいね。E3-MMは歌の線がちょっと細い感じだったけど、1042はもっと膨らんでる感じがします。

 肉感が出ますね。

PB そう。そしてバランスもめちゃくちゃいいね。レコーディングがいいこともあるのかもしれないけど、すごく分離がいい。ギターとベイスとドラムズとフィドルが全部くっきりとした音像で聞こえます。

 一気にグレードが上がった感じがしますね。

 ではここで、またカートリッジを交換します。今度はIM型の2300を聴いてみてください。

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デレク・トラックス・バンド「I Know」を試聴

カートリッジ:Goldring 2300

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PB これはまたかなり変わりましたね! いちばん驚いたのはヴォーカルです。このバンドのヴォーカリスト、マイク・マティスンの歌はわりと中域に収まる感じで、ミックスの中では埋もれがちな声なんです。でも、このカートリッジで聴くと、歌が際立っていました。一つ前までのカートリッジでは、マイクの歌はやっぱり埋もれがちだなと思っていたんだけど、全然違っていました。それと、デレクのギターがすごく立体的になりましたね。音のエッジがすごく利いている感じで。あと、このバンドのベイシストのトッド・スモーリーはとてもいいミュージシャンなのですが、この曲のミックスはベイスがわりと控えめなんです。このカートリッジではベイスが大きくはないけれど、きちんとした存在感がありました。

 なるほど。全体的な音の厚みやインパクトはMM型の1042のほうが感じられたかもしれません。「きた!」という、曲が始まった瞬間のグルーヴ感はMM型ならではのものがありました。

PB うん。そうかもしれないね。

 1042と、いま聴いた2300は価格帯も近いのですが、その評価は本当に好みで分かれるところですね。Goldringという同じブランドの同価格帯の中で、キャラクターの違うモデルが複数存在するというのも面白いと思います。

PB ここまでの僕の印象としては2300に若干軍配が上がるかなと思うけど、確かに1042はパンチが利いていてインパクトもあった。どれがいいかは、音源によって違ってくるのかもしれません。

 では、リアノン・ギデンズも聴いてみましょう。

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試聴中の皆さん。左は取材に駆けつけてくれたOTAIAUDIO / OTAIRECORDの井上揚介さん

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リアノン・ギデンズ「That Lonesome Road」を試聴

カートリッジ:Goldring 2300

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PB うーん、何だろう。やっぱりこのカートリッジは、歌に関してちょっとした周波数の違いというか、そんな細かい部分の描写がいいのかな。

 たぶん、2300のほうが若干S/Nがいいのだと思います。細かいところが出るというのはそんなスペックの差かもしれません。

PB この曲ではベイスの立体感もすごくよかったしね。また、「I Know」で感じたベイスと同じように、「That Lonesome Road」の頭のほうでは、「ああ、タンバリンの音もけっこうちゃんと入っていたんだな」と気付かされました。

 1042と2300は、うちの社内でも好みが分かれて面白いんですよ。さて、カートリッジ交換の最後はMC型のEROICA H-MCです。

 昔からオーディオ界では、カートリッジといえばMC型が最上位の方式だというイメージがありました。製造に手間がかかるため、価格もほかの方式に比べて高価なものが多いですね。ただ、CDやSACDの登場以降、実はカートリッジはものすごい進化を遂げています。精密加工の技術が向上したことで、針先の加工が昔とは全然違うものになってきたのです。単なる丸針や楕円針だったものが、超楕円針やマイクロリッジ針、シバタ針など、さらに精密な形状のものが登場し、音溝への入り方や接し方にいろんなバリエーションが出てきました。こうした進化はカートリッジ全体に対する音のイメージを20年前、30年前のものから大きく変えています。そんなこともあって、かつてのMC至上主義からMMやIMも見直されています。今回は同じブランドでそのあたりの進化も含めて聴き比べができるので、個人的にも大変興味深いところです。やはりMCは細かい音が表現されていいという評価なのか、ちょっと線が細くなってしまうから音楽によってはMMのほうが合っているという印象なのか。

 では、かつて最後の砦と言われたMC型のEROICA H-MCを聴いてみましょう。ちなみに価格のグレードは、方式の違いによる手間の部分を差し引くと、MM型の1042、IM型の2300とほぼ同じと考えて差し支えありません。

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カートリッジを手早く付け替える庵さん

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デレク・トラックス・バンド「I Know」を試聴

カートリッジ:Goldring EROICA H-MC

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PB うん。イントロのギターはものすごくいい音でしたね。

 S/Nが非常に高くて、MCらしい音でしたね。

PB 全体的にとても丁寧な音という印象でした。僕の好みで言えば、この曲「I Know」には2300のほうがしっくりくるかな。でも、このカートリッジで、チャールズ・ロイドのレコード『I Long To See You』も聴いてみたいと思いました。

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チャールズ・ロイド「Shenandoah」を試聴

カートリッジ:Goldring EROICA H-MC

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PB これはこれで美しいね。微かな息遣いやサックスのパッドの音が聞こえました。

 確かにこの曲には合っている気がしますね。

井上 ちょっと提案させていただきたいのですが、この状態でスピーカーのバスレフ・ポートを開けて聴いてみてはいかがでしょう。

 なるほど。いまの曲は低域がほとんどないから、いいかもしれませんね。バスレフ・ポートのキャップを一つ外してチャールズ・ロイドを聴いてみましょう。伸びやかさが加わるかもしれません。

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チャールズ・ロイド「Shenandoah」を試聴

カートリッジ:EROICA H-MC

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井上 あ、全然違う。

PB ホントだ、かなり違うね。

 こういう曲だと開けたほうが確かにいいですね。解像度が高いので、すっきりと聞こえます。バスレフ・ポートを塞ぎたくない場合は、壁面に吸音材を貼ったり、本棚を利用したりといった工夫が考えられます。こうしたアドバイスをしてもらえるのも、OTAIAUDIOさんのような専門店ならではですね

PB なるほど。少なくとも、この部屋についてはこれで完璧です。

井上 MM型の1042のときはキャップで塞いだほうがいいと思いましたが、EROICA H-MCは開けたほうがいいですね。

 同じ曲をCDで聴くと低域が気になってやっぱり塞いだりして、それもオーディオの難しくも面白いところではあります。

PB フッフッフ。悩ましい(笑)。

 では、この状態でリアノン・ギデンズも聴いてみましょう。

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リアノン・ギデンズ「That Lonesome Road」を試聴

カートリッジ:Goldring EROICA H-MC

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PB バスレフ・ポートを開けると音が明るくなるように感じますね。

 ただ、ポートを開けるとこのアクースティック・ベイスの「ブーン」という音が気になるかもしれません。これはまさに部屋の影響で、ポートを塞げばその部分は解消されますが、すると今度は全体的な面白さが後退してしまうと感じる方もいらっしゃると思います。そうしたせめぎ合いをどうバランスさせるか、ポートを開けたままで後ろの空間や壁をどう工夫するかといったことが、オーディオを楽しんでいただくためのテクニックということになります。

PB うん。バスレフ・ポートの実験も面白いですね。カートリッジの話に戻りますが、「That Lonesome Road」も、僕はIM型の2300のほうが好みでした。

 編集担当の山本さんからは「断然EROICA H-MCがいい」という声が上がりました。僕の個人的な意見としては、「I Know」は2300、「That Lonesome Road」はMM型の1042がいいと思いました。女性ヴォーカルの質感が潤っている感じがよくて。総合的には2300が好きなんですけどね。

井上 そういう人はお金がかかりますね。二つとも買うことになるので(笑)。

PB ハハハハハ。

 今日の特選アナログ・レコードのカートリッジの聴き比べは、同じレコードを聴きながら、人によって好みがはっきりと分かれるのも面白かったですね。バラカンさんはいかがでしたか。

PB 僕にとってカートリッジというのは正直なところ、普段はそれほど注目するものではありませんでした。A Taste of Musicを読んでくれている音楽ファンにとっても、忘れがちな存在かもしれません。それでも僕はMM型とMC型の違いはおぼろげながら分かっていたつもりだし、モノラルとステレオも本当は使い分けたほうがいいことは知っているのですが、根が面倒くさがりなもので(笑)、それらを聴き比べてみようと思ったことはないんです。だから、今日の聴き比べは初めての体験だったし、MM型とMC型以外にも種類があることも初めて知りました。実際に聴いてみて、カートリッジ一つでこれほどまでに音が変わるのかと、本当に意外だったし、すごく楽しかったです。

 楽しんでいただけて嬉しいです。それにしても、今日のレコードはどれも素晴らしかったですね。

PB 悪いものは選んでませんから(笑)。

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音の違いが思いのほかよく分かり、印象を語り合うのも楽しかった今回のカートリッジの比較試聴

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お気に入りのGoldring 2300と

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この日の試聴システム

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特殊なデュアル・マグネット構造による正確なレコード溝のトレースを実現したGoldring のEシリーズ。中でもE3-MMは特別仕様の楕円針を採用することで、より細かいレベルの信号を取り出すことが可能

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高音質なMM型として人気を誇るGoldring の1000シリーズ。共振を防ぐ高剛性な強化樹脂素材によるワン・ピースのボディに、1042は音溝の変化に対する素早いレスポンスを実現するGyger S針を装備

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Goldringの新しいIM(インデュースド・マグネット)方式を採用した2000シリーズ。2300は、透明度の高いサウンドと優れたトレース精度を兼ね備えたGyger IIライン・コンタクト針を採用している

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Goldring のEROICAシリーズはスマートな形状により磁気回路を短縮化し、全体で使用される金属の量を減らすことで5.5gの軽量設計を実現したMC型。高出力型のH-MCはMMポジションでの使用が可能

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多日本ではアナログ・レコード・プレーヤーのブランドとして人気を博したROKSAN。Radius 7はアクリル製の筐体も美しいコンパクトなハイエンド・モデル。「Radius 7が高級アナログ・プレーヤーであることは、この造りを見ただけで分かりますね。価格を超えた価値が滲み出ているんですよ」と、OTAIAUDIOの井上さんも高く評価する

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Monitor Audioの人気モデルSilver300は3ウェイ構成のバスレフ型スピーカー。2発の小型ウーファーが繰り出す低音も魅力

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締まりのある低音を実現するというMonitor Audioオリジナルのバスレフ・ポート。リスニング・ルームの設置条件により、専用のキャップを利用して特性を調整することが可能(写真はSilver500の背面)

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ROKSAN自慢のMMフォノ入力も搭載するプリ・メイン・アンプK3 Intは、シンプルなデザインも素敵な同ブランドの人気モデル

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CDプレーヤーはK3 CD。デジタルながらROKSANらしいアナログ・ライクなサウンドは地元イギリスでも高い人気を誇っている

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左から、井上揚介さん、バラカンさん、早雲健悟さん(OTAIRECORD MUSIC SCHOOL "ISM")、庵 吾朗さん
「今日の聴き比べでは、1042にグレードが上がったときの変化が衝撃的でした。カートリッジは私たちにとっても欠かせないものですが、音に与える影響を再認識しました」(早雲さん)
「実はこのところ、DJとオーディオの垣根がなくなってきています。その意味でも今日の試聴は意義深かったと思いますね」(井上さん)

◎試聴システム

カートリッジ:Goldring E3-MM(VM)、1042(MM)、2300(IM)、EROICA H-MC(MC)
アナログ・レコード・プレーヤー:ROKSAN Radius 7
CDプレーヤー:ROKSAN K3 CD Player
プリ・メイン・アンプ:ROKSAN K3 Integrated AMP
スピーカー:Monitor Audio Silver300

Coming Soon

ヘッドライナーはニュー・オーリンズの雄、
ジョン・クリアリー!

ピーター・バラカン監修で贈る音楽祭
「Live Magic!」が今年も開催

2018年10月20日(土)・21日(日)
恵比寿ガーデンプレイス[ザ・ガーデンホール/ザ・ガーデンルーム]

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今年の「Live Magic!」の聴きどころを語るバラカンさん

もう一度観たい!
「Live Magic!」が誇る強力なリピーターたち

 僕がキュレイションしている音楽フェス「Live Magic!」は、今年で5回目を迎えることになりました。4回目までは、なるべく同じアーティストを繰り返して呼ばないようにしていたんですが、今回はこれまでに登場した人にも、もう一度声をかけることにしました。

 というわけで、第1回の「Live Magic!」でもヘッドライナーを務めてくれたジョン・クリアリーが今年もやってきます。今回は、彼のソロとトリオの2ステージです。トリオのほうはゲストにナイジェル・ホールも参加します。ナイジェル・ホールはジョン・クリアリーと同じくキーボード奏者でヴォーカリストですが、これまたニュー・オーリンズを拠点としているミュージシャンで、二人はよく一緒にやっているんですね。アフリカン・アメリカンのナイジェルもピアノがすごく上手だし歌も素晴らしいんですよ。ちなみに、ナイジェルという名前はイギリスに圧倒的に多いもので、アメリカ人としては初めて聞きましたが、まさか黒人だとは名前からは想像しませんでした。この二人の共演は僕も楽しみです。セット・リストは、ニュー・オーリンズのR&Bだったり、ファンキーなジョンのオリジナル曲などになるでしょう。ジョンの新しいアルバム『Dyna-Mite』が出たばかりですが、もうタイトル曲からしてご機嫌な演奏を聴かせています。

 リピーターと言えば、やはり第1回にも出てくれた中村まりが今年も出演します。彼女の歌も、ぜひもう一度聴きたいと思って声をかけました。そして、毎回出演している濱口祐自は、もちろん今年も登場します(笑)。去年、大盛況だった民謡クルセイダーズも再登場します。このグループは今年、フジロックをはじめいろんなフェスで引っ張りだこになっていますが、「Live Magic!」でも応援し続けたいと思っています。2016年にも出てくれた高田漣は、今年はバンドで参加してもらいます。

 ノーム・ピケルニースチュワート・ダンカンは、バンジョーとフィドルの第一人者としてものすごい才能をもった二人です。ノームはパンチ・ブラザーズのメンバーとして知られ、スチュワートはカントリーやブルー・グラスのシーンだけに留まらず、ヨーヨー・マともアルバムを作っていたり、どんなジャンルの人とも共演できる素晴らしいミュージシャンです。この二人もアメリカで一緒にツアーしたことがあるそうで、とても楽しみな組み合わせです。

 今日はCDプレーヤーもいい機材を用意してもらっていますから、ノーム・ピケルニーが去年出したソロ・アルバム『Universal Favorite』から1曲目の「Waveland」をCDで聴きましょう。バンジョー奏者として有名なアール・スクラッグズのスタイルやベラ・フレックのメロディックな展開もやりながら、この人独自の雰囲気も持っていることが分かります。2曲目の「Old Banjo」では彼のヴォーカルも聴けますが、ちょっと低めの声もいい感じですね。バンジョーも本当にすごくて、こんなのをライヴでやられたらたまりません。

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Jon Cleary

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Noam Pikelny & Stuart Duncan


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中村まり

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高田漣


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濱口祐自

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民謡クルセイダーズ

聴けば必ず好きになる!
要注目のプログラムが目白押し

 Flook(フルック)は、イングランドとアイルランドのメンバーが交ざったグループで、フルートの二人にギター、バウロンという編成です。ブライアン・フィネガンとセーラ・アレンがフルートやウィスルを演奏します。アクースティック・ギターを弾くのがエド・ボイド。そして、アイルランドの音楽でよく使う手持ちの太鼓バウロンを演奏するのはジョン・ジョー・ケリーですが、この人のバウロンは本当にすごいんです。そんなに有名なグループではないけれど、実は日本にも何度か来ていて、今回はちょっと久しぶりの来日公演となります。しばらく活動を停止していたんですが、再結成してまた活動を再開しているFlookは、これまた楽しみなグループです。彼らのアルバム『Haven』から「Mouse Jigs」をCDで聴いてみましょう。一見ありがちなアイリッシュ・ミュージックですが、やはりフルートが二人いるのがなかなかいいんですね。ライヴでは、女性のセーラ・アレンが、なぜか片足立ちでフルートを吹くクセがあって(笑)、見ていても楽しいんですよ。

 Dereb The Ambassador(デレブ・ジ・アンバサダー)はグループ名で、リーダーはデレブ・ダサレンというエチオピア人。バンドはオーストラリアを拠点に活動しています。エチオピアン・ジャズというのがわりと知られていますが、彼らの音楽はジャズの要素も持たせつつ、ソウルやファンクも採り入れた“エチオ・ソウル”や“エチオ・ファンク”と言われています。ちょっと不協和音のように聞こえたり、まるで昭和歌謡みたいに聞こえたり、不思議なエチオピアン・メロディを使ったファンキーなグループで、とても面白いんですよ。

 The Ska Flamesは日本の本格的なスカ・バンドで、民謡クルセイダーズと同じセミ・プロの人たちです。ほかに仕事を持ちながら、週末だけライヴ活動をしていますが、もうすでに30年以上のキャリアがあるんですね。「Live Magic!」ではReggaelation IndependAnceといったレゲエのバンドも過去に呼んでいますが、彼らのステージも絶対に盛り上がると思います。

 一昨年の「Live Magic!」にZabaDuo(ザバデュオ)という二人組に来てもらいましたが、そのベイシストのチャーリー・ウートンはほかにもいくつかのユニットを持っていて、Zydefunk(ザイデファンク)もその一つ。ザイデコというルイジアナ西部の音楽をベースにしたファンクを展開しています。ファンキーなところとルイジアナの田舎っぽいレイド・バックな感じが合わさっているのがいいんですね。本来はアコーディオンも入っていますが、今回はトリオでの来日となります。そのゲストとして初来日のギタリスト、ブランドン・ニードラウアーが加わります。アメリカにタズメニアン・デヴィルという荒々しい動物の漫画があって、それに似ているから、ニック・ネームはTaz(タズ)だけど、彼はまだ15歳なんです。アフロ・ヘアで、ギターを顔で弾くタイプだけど上手いんですよ。すでにいろんなフェスに出ている彼は、まだまだ成長していくはずだから、下手に派手なことをやらずに地道に続けていけば相当伸びると僕は見ています。未成年だから、お父さんと一緒に来ますけど、かなり話題になると思いますね。

 去年、代官山の“晴れたら空に豆まいて”で、たまたま見かけたヴァイオリンとタブラのデュオがとても面白くて、その場で2017年の「Live Magic!」への出演をお願いしたんですが、残念ながらスケジュールが埋まっていたので、「じゃあ来年はぜひ」ということで出てもらうことになったのが勝井祐二 × U-zhaanです。会場は小さい方のガーデン・ルームになりますが、本当に面白い演奏になると思いますから、ご期待ください。

 同じくルームでのプログラムですが、フランス在住の日本人でサックス奏者の仲野麻紀と中東の弦楽器ウードを演奏するフランス人ヤン・ピタールの二人によるKy(キイ)は、2005年から活動している要注目のユニットです。オリジナル曲のほか、中東ふうの曲もやるし、2016年に出たアルバム『Désespoir agréable』ではエリック・サティの曲を取り上げています。サックスとウードで聴く「グノシエンヌ」も面白いですよ。

 ガリカイ・ティリコティ(Garikayi Tirikoti)は、ジンバブエの“ンビラ”という親指ピアノの奏者です。彼の親指ピアノは独特で、丸いケースの中に入った形で、恐らく音を増幅しているのだと思いますが、ライヴだと客席から手元が見えないのがちょっとやっかいなところ。でも、この人の親指ピアノは本当にすごく上手です。最近は日本にも2年に1回くらい来ていて、来日するときは3ヵ月くらいかけて日本全国の津々浦々を回って演奏しています。素朴だけど、とってもいい気持ちになる音楽です。

 そのニュー・アルバム『Munamato(Prayer)』から「Shumba」を聴いてみましょう。先ほどお話ししたように、ガリカイ・ティリコティの親指ピアノはケースの中に入っているんですが、そのケースの周りにはビール瓶の蓋を緩く貼り付けてあります。これが演奏中に振動してノイズ成分を出すわけなのですが、アフリカの人たちはこのノイズ成分がないとつまらないそうですね。

 久保田リョウヘイというミュージシャンのことを僕が知ったのはつい数ヵ月前のことですが、彼が演奏するのはハンド・パンという楽器です。スティール・パンを逆さまにしたようなもので、円盤のように見えるこの楽器を膝に乗せて両手で演奏するんですが、いろんな音程が出るんですね。彼はまだ21歳くらいですが、すごく上手で、こちらも非常に心地のいい音を奏でてくれます。

 今回も相変わらず、アクースティックなものも多かったりして、いつものようにいろんなジャンルの人たちが出没することになりますが(笑)、ぜひいらしてください。いつも来てくれている皆さんは、ぜひお友だちを連れてお越しください(笑)。この音楽フェスの存続はひとえに、皆さんのご協力にかかっています。そして、「Live Magic!」の後、翌日の10月22日(月)には、山形のシベールアリーナで「LIVE MAGIC! EXTRA in YAMAGATA」を開催します。ここではジョン・クリアリー・トリオナイジェル・ホール濱口祐自が出演する予定です。

 もう一つのお知らせは、YouTubeでお届けしている「LIVE MAGIC! TV」です。今年は東洋化成の映像スタジオが協力してくれることになったので、ここを利用してちょっとしたライヴなども発信していく予定ですので、こちらもぜひご覧いただきたいと思います。

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Flook

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Dereb The Ambassador


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Zydefunk

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Brandon "Taz" Niederauer

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Garikayi Tirikoti


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Ky

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勝井祐二 × U-zhaan


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The Ska Flames

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久保田リョウヘイ

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OTAIRECORD MUSIC SCHOOL "ISM"

2016年に開校したOTAIRECORD MUSIC SCHOOL "ISM"は、アナログ・レコードやDJ機材の通信販売専門店OTAIRECORDが運営する音楽学校。現役の一流DJやアーティストが講師を務め、少人数制の各クラスでDJや作曲などを学べる。ターンテーブルをはじめとする機材環境はハード/ソフトとも充実し、また、A Taste of MusicでおなじみACOUSTIC REVIVEのケーブルを採用するなど、音質面にもこだわっている。場所は東京渋谷駅の新南口から徒歩1分の好立地。

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営業時間:11:30~19:00(「ジャズ・ファンの集い」開催時は21:00まで)
定休日:水曜・木曜
住所:東京都渋谷区渋谷3-16-1 福よしビル2F
Tel.:OTAIRECORD HEAD OFFICE 0568-48-1610(受付時間は水曜と木曜を除く11:00〜16:00)
ホームページ:https://www.otaiweb.com/school/

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「単にミックスの仕方で終わることなく、DJによってどう自己表現をしていくのかといった、深い部分まで学んでいただけるのが当スクールの特徴です。もっと音楽を知りたい、もっとDJが上手くなりたいという方に満足いただける学校ですので、ご興味がある方はぜひいらしてください。もちろん、初心者の方も大歓迎ですので、お気軽に門を叩いていただければと思います」(早雲さん)