Bert Jansch『s/t』, Duck Baker『Spinning Song - Plays The Music Of Herbie Nichols』, Ry Cooder『The UFO Has Landed』, Derek Trucks『Songlines』, Eric Clapton『Blues Breakers - John Mayall With Eric Clapton』, Otis Rush『This One's A Good 'Un』, Charlie Christian『Original Guitar Hero』, V.A. 『None But the Righteous: The Masters Of Sacred Steel』, The Staple Singers『The Ultimate Staple Singers A Family Affair 1955-1984』
そして、何と言っても4年ぶりに登場してくれたジョン・クリアリーです。初日はピアノ・ソロで、翌日は彼のトリオにキーボード奏者のナイジェル・ホールを加えた編成でした。ジョン・クリアリーは、自分のほかにキーボード奏者がいるときはギターも弾きます。実はピアノを弾くようになる前からギターを弾いていたそうで、そういう意味ではドクター・ジョンと同じですね。ドクター・ジョンは銃で手を撃たれてしばらくギターが弾けなくなったからピアノを始めたんですが、ジョン・クリアリーの場合は、住んでいたニュー・オーリンズに素晴らしいピアニストがたくさんいたことが影響してピアノも弾くようになったんですね。ここ数年でまた弾くようになった彼のギターも素晴らしいです。フレージングにも独自の雰囲気があって、すごくソウルっぽい。昔のボビー・ウォーマックのような感じもあります。本人は、ジョニー・“ギター”・ワツンが好きらしく、そういうギターを弾くんですけど、今回のステージでは彼のそんな一面も観てもらえたと思います。ピアノもいいし歌もいいし、いい曲も作る。これ以上言うことないのに、どうしてこの人はそれほど有名じゃないんだろうと。2015年のアルバム『Go Go Juice』はグラミーの地域音楽部門賞を獲得するなど、アメリカの業界では認められているんですけどね。そのジョン・クリアリーは「日本のお客さんは世界一だね」と言って帰っていきました。
2018年10月10日、ブルーノート東京でのステージから。[Photo by Tsuneo Koga]
2017年の「Live Magic!」に、The New Stew(ニュー・ステュー)というグループが出演しました。いろんなジャム・バンドをやっている人たちがたまに集まる特別なプロジェクトですが、そのメンバーの一人にラップ・スティール・ギターを弾くローズヴェルト・コリアーがいました。元々はいわゆるセイクレッド・スティールというシーンから出てきた人で、一時期はThe Lee Boys(リー・ボイズ)というグループにも属していましたが、他にもいろんなプロジェクトに関わっていて、その中の一つがこのBOKANTÉ(ボカンテ)です。最近話題のスナーキー・パピーのリーダー、マイケル・リーグが率いるグループでもありますね。そんな彼らが10月にブルーノート東京で来日公演を行いました。
では、BOKANTÉが2017年に出したアルバム『Strange Circles』から「Nou Tout Sé Yonn」を聴いてみましょう。この曲でも3人のパーカッショニストがそれぞれに違うフレーズを違う楽器で演奏していますが、すごくうまく組み合わされていますよね。そのあたりは、実際にライヴを観ないと分からないことかもしれません。そして、マイケル・リーグはエレキ・ギターのほか、電気ウードも弾いています。ライヴでも披露していましたが、それもいい音でした。ちょっとほかにはない味わいのあるバンドで、とても面白いライヴでしたね。お客さんの反応も良かったですよ。そして、彼らの新しいアルバム『What Heat』では、オランダのメトロポール・オルケスタというクラシックではない楽団と一緒に録音しています。
『Strange Circles』
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イギリスのフォーク・シーンでお勧めのギタリスト
Bert Jansch『Bert Jansch』
ここからは僕がお勧めするギタリストのアルバムについて語っていきたいと思います。まずはかつてのフォーク・シーンで活躍したバート・ヤンシュが1965年に発売したデビュー・アルバム『Bert Jansch』を取り上げます。僕も高校生のときにアクースティック・ギターで必死にコピーしたアルバムで、イギリス盤がどこかにあるはずですが、今日は国内盤を持ってきました。この中から、A面の最後の曲「Needle Of Death」を聴いてみましょう。これは、ヘロインで死んでしまった彼の友達のことを想って作った曲です。そんなに難しくは聞こえないと思うんですけど、キーはFだったかな。高校の先輩がギターの弾き方を教えてくれたんです。ご存知のように、Fがキーだと人差し指をバレーしながらいろんなコードを弾かなければならないから死ぬほど難しくて。でも、あとで考えたらカポを使えばよかったのかも(笑)。無駄な苦労をした可能性がかなりありますね。それはともかく、バート・ヤンシュは素晴らしい曲を作るし、ギターもめちゃくちゃ上手い。彼は1943年、つまり戦時中にスコットランドのエジンバラで生まれました。地元の小さなフォーク・クラブでギターを弾き始めて、その後、活動拠点をロンドンに移しました。このデビュー・アルバムは、プロデューサーだったビル・リーダーの自宅の台所でRevoxの2トラックのオープンリールのテープ・レコーダーで録音したらしいのですが、十分にいい音で録れていますね。
当時のイギリスのフォーク・シーンでは、この人の前にデイヴィ・グレアムというギタリストがいました。ちょっと変わり者でもあった彼は、アクースティック・ギターの弾き手として革命的な奏法を編み出しました。そこにはフォークだけじゃなく、ブルーズやジャズ、北アフリカの音楽などいろんな要素が盛り込まれていて、当時のどんなギタリストが聴いてもぶっ飛ぶようなミュージシャンでした。その影響を受けながら、少しあとにデビューしたのがバート・ヤンシュやジョン・レンボーンといったイギリスのギタリストです。『Bert Jansch』に収録されている「Smokey River」は、おそらく独特なチューニングで弾いている画期的なインスト・ナンバーです。曲の終わりに、アメリカのジャズ・ミュージシャンでサックス/クラリネット奏者のジミー・ジュフリーの「The Train And The River」のリフを引用しています。このアルバムではまた、デイヴィ・グレアムの持ち歌である「Angie」もカヴァーされています。この曲はそのほかたくさんの人にカヴァーされていて、ポール・サイモンもデビュー・アルバムでこれを弾いていますね。
Duck Baker『Spinning Song - Plays The Music Of Herbie Nichols』
もう一人、アクースティック・ギター奏者を取り上げましょう。アメリカのミュージシャンのダック・ベイカーは、先ほどのバート・ヤンシュより6つほど若いギタリストです。僕が彼のことを初めて知ったアルバムが1996年に出た『Spinning Song - Plays The Music Of Herbie Nichols』です。今日はこの中から4曲目の「Nick at T's」を聴いてみましょうか。
以前、ラジオの番組にダック・ベイカーが来てくれたとき、フランス人シンガーのマヌ・チャオの「Bongo Bong」という曲をかけていたら、「これと同じタイトルの曲を知ってる?」と言うんです。彼の話によると、ロイ・エルドリッジというスウィング・ジャズのトランペット奏者の「The King Of Bongo Bong」という曲があって、ダック・ベイカーも1977年のアルバム、その名も『The King Of Bongo Bong』でこの曲を取り上げています。その後、アナログ・レコードをわざわざアメリカから送ってくれたのでよく覚えています。彼のギターは一言で言って、とにかく上手い。実際にライヴを観ると、テクニックはすごいしリズム感も良く、聴いていて楽しいんです。上手くて、さらに「ほかにない」という要素も持ったミュージシャンですね。彼は現在、69歳でイギリスに住み、まだまだ元気に自主制作でCDも出し続けています。また来日したら、ぜひ観たいですね。
『Spinning Song - Plays The Music Of Herbie Nichols』
スライド・ギターに画期的な奏法をもたらした研究家
Ry Cooder『The UFO Has Landed』
続いてはライ・クーダーです。僕は彼の音楽を初めて聴いてぶっ飛んで、ギターを弾くのはもうやめようと思いました(笑)。あまりにも先が長すぎると思わされたからです。今日持ってきたのは編集盤の『The UFO Has Landed』。「How Can You Keep Moving (Unless You Migrate Too)」を聴いてみましょう。セカンド・アルバム『Into The Purple Valley』の1曲目に入っている曲で、このレコードのA面に針を落としたとたんに、こんなすごいスライド・ギターが流れてきたので驚きました。当時の僕はアクースティック・ギターしか持っていませんでしたけど、ボトル・ネックも練習もしていて、簡単なブルーズならそこそこ弾けるようにはなっていたんです。この曲も弾いてみたいなと思ったのですが、チューニングが分からない。プロのギタリストからすれば、それほど不思議でもないチューニングだったのかもしれませんが、僕はもう最初からお手挙げ状態になってしまって(笑)、ギターを弾くのを諦めてしまいました。それくらい、ライ・クーダーにはとてつもないミュージシャンだという印象が強いんです。ボトル・ネックのテクニックもさることながら、彼はギターをものすごくクリーンに弾くんですね。弦のノイズがほとんど出ない。スライドにしても、そのきれいな音に惚れ惚れしてしまいます。そして、取り上げているのは1920~30年代の曲も多くて、編曲をかなり変えてロックっぽくしたりするんですけど、僕もこの人のおかげでアメリカのルーツ・ミュージックを知ったようなものなんです。ヴォーカルは、上手いというよりは味のある歌という感じですが、僕はずっと大好きで、「Live Magic!」にもなんとか呼びたいミュージシャンの一人です。ちなみに、彼の息子のホワキン・クーダーはドラマーとして活動していて、この編集盤の選曲も彼が行っています。
ライ・クーダーというミュージシャンはものすごく研究肌の人なんですね。ブルーズやフォークの曲を取り上げても、編曲によって自分だけのものにしてみたり、ギターのフレージングにしても独特なものがあります。いま聴いた1972年の曲も、さり気なく弾いていますけど、あの時点でこんなスライド・ギターを弾いていた人はほかにいないんですよ。本当に画期的な存在でしたね。当時のスライド・ギターと言えば、ブルーズのシーンではロバート・ジョンスンやサン・ハウスなどミシシッピ・スタイルのボトル・ネックを聴かせる人たちがいましたし、エレキ・ギターでのスライドならマディ・ウォーターズらがいましたが、それほどテクニック的にすごくなくても、十分に雰囲気のある演奏として聴くことができました。でも、この『Into The Purple Valley』を聴いたときは本当にびっくりしました。
彼のすごさは演奏だけではなく、選曲でも光っています。僕らのような当時の若者たちに、例えばウディ・ガスリーの歌を最初に聴かせてくれたのも、ボブ・ディランではなくライ・クーダーだったと思います。また、『Into The Purple Valley』ではドリフターズの「Money Honey」というR&Bを取り上げていますが、これも1950年代の曲だから、このアルバムで初めて知った人は多かったはずです。その他にも、レッド・ベリーやジョニー・キャッシュを取り上げたりして、選曲もすごく面白かったんです。それも、ロックが好きな当時の若者を違和感なく引き込むような演奏で聴かせてくれるんですね。音楽学者のようなところもあるから、真面目すぎると感じる人もいるかもしれませんが、僕にとっては最もお世話になったミュージシャンの一人です。『Into The Purple Valley』のほかにも、『Paradise and Lunch』(1974年)や『Chicken Skin Music』(1976年)、1980年代なら『Get Rhythm』(1987年)など、彼にはいいアルバムがたくさんあります。
Eric Clapton『Blues Breakers - John Mayall With Eric Clapton』
続いてはエリック・クラプトンです。折しも、彼のこれまでの生涯を綴ったドキュメンタリー映画『エリック・クラプトン~12小節の人生~』が公開中ですね。僕が最初にエリック・クラプトンのギターを聴いたのはヤードバーズでしたが、彼をソロのギタリストとして意識したアルバムがジョン・メイヤール&ブルーズ・ブレイカーズの『Blues Breakers - John Mayall With Eric Clapton』(1966年)です。このレコードは当時買ったものだから、もう50年以上経っています(笑)。ジャケットに写っているクラプトンはまだ二十歳そこそこの頃ですね。裏ジャケの彼の写真が当時の若者に与えた影響も絶大で、ギターのヘッドに煙草を挿していることと、シャツのカフツ・ボタンを絞めないことは、アルバムが出たとたんにみんなが真似していました(笑)。ではこのアルバムから、A面の頭から2曲を続けて聴いてみましょう。
1曲目の「All Your Love」で、すでに「もう参りました」という感じですけど、次の「Hideaway」もすごい。もう何100回も聴いたアルバムだから、どのフレーズも脳裏に焼き付いているけど、いま聴いてもやっぱりすごい(笑)。「Hideaway」のオリジナルはフレディ・キングですが、元は素朴な曲なんですよ。それを1966年にこの演奏でぶちかましたクラプトンは本当にすごいと思います。こういうギターのインプロヴィゼイションをするブルーズ・バンドは当時、ほかにも存在はしていたかもしれないけど、一般的にはだれにも知られていない時代なんです。「All Your Love」はオーティス・ラッシュの曲で、彼はブルーズ・フェスティヴァルでイギリスに来てはいたものの、相当なブルーズ好きでなければ知らない存在でした。圧倒的に多くの人はエリック・クラプトンのギター・スタイルによってこのあたりの曲を初めて聴いています。
映画のパンフレットには、僕の文章が少し載っていて、「エリック・クラプトンを語る上で外せない20曲」といったテーマで選んだ曲について書いています。やはりブルーズの曲が多くて、ビッグ・ビル・ブルーンジーやマディ・ウォーターズ、バディ・ガイ、そしてもちろんオーティス・ラッシュも。また、関わりのあったデレイニー&ボニーやJJ・ケイルの曲も取り上げました。そしてもう一つ、クラプトンに影響を与えたのがザ・バンドです。クリームで活動していたとき、まるっきり正反対の雰囲気を持ったザ・バンドの『Music From Big Pink』を聴いて、後にルーツ・ミュージックと呼ばれるようになるサウンドにクラプトンは目覚めて、このバンドのメンバーになりたいと思うくらいに衝撃を受けたそうです。
あとはジミ・ヘンドリックスの曲も入れました。デレク・アンド・ザ・ドミノーズの『Layla and Other Assorted Love Songs』で「Little Wing」をカヴァーしていますね。それから、アリーサ・フランクリンも入れました。アリーサのセッションに1曲だけ、クラプトンも参加しているんです。クリームの2作目『Disraeli Gears』(1967年)のレコーディングでニュー・ヨークのアトランティック・スタジオを訪れたとき、アリーサもちょうどアルバムの録音をやっていたんですね。アトランティックの社長であるアーメット・アーティガンもクラプトンを気に入っていたので、彼をアリーサのスタジオに招いたら、ちょうどブルーズっぽい曲をやっていたそうで、ギター・ソロを促されるのですが、彼女の存在があまりにも強烈でびびってしまい(笑)、納得できる演奏ができなかったそうです。でも翌日、アリーサがいないスタジオでオーヴァー・ダビングし直したら、今度はばっちり上手く演奏できたというエピソードが残っています。
若い音楽ファンには、デレク・アンド・ザ・ドミノーズやクリーム時代のクラプトンを聴かずに、1992年に『Unplugged』がヒットしたときにアクースティック・ギターを聴く姿をMTVの映像で観て初めてを知ったという人がけっこういます。「Layla」もアンプラグドで演奏されましたが、オリジナルの後半のピアノと二人のギターが延々と続く部分はカットされています。だから、オリジナルを知らない人が聴いたら全然違う曲だと思うかもしれませんね(笑)。まぁ、時代も違うから仕方ありませんが、今回取り上げた『Blues Breakers - John Mayall With Eric Clapton』は聴いていない人も多いようですので、ぜひお勧めしたいですね。ちなみにドキュメンタリー映画のサウンドトラックは2枚組で、ヤードバーズやジョン・メイヤール&ブルーズ・ブレイカーズ、クリームなどのほか、ソロ作品やビートルズの「While My Guitar Gently Weeps」といったセッション参加曲も収録されています。
『Blues Breakers - John Mayall With Eric Clapton』
シカゴ・ブルーズに斬新な奏法をもたらした革命児の一人
Otis Rush『This One's A Good 'Un』
クラプトンらにも大きな影響を与えたブルーズ・ギタリスト、オーティス・ラッシュが9月に亡くなりました。ここではクラプトンのところで聴いた「All Your Love」のオリジナルを、聴いてみましょう。アルバムは編集盤の『This One's A Good 'Un』です。先ほどのカヴァーより10年前の1956年頃の録音です。クラプトンのときでさえ、画期的と言われた演奏の基となったのがこれですね。シカゴ・ブルーズは1940年代の後半から徐々に形になっていきましたが、そうした中でいきなりとんでもないギタリストが登場したという感じだったわけです。
ジャズ・シーンからも一人、チャーリー・クリスチャンを取り上げたいと思います。コンピレイション・アルバム『Original Guitar Hero』の日本盤ボーナス・トラックから「Rose Room」と「Waiting For Benny」を聴いてみます。「Waiting For Benny」は、楽団のリーダーであるベニー・グッドマンが現れるのを待つ間にやっていたジャム・セッションだと思います。そして、1939年に録音された「Rose Room」を選んだのにはわけがあります。
V.A. 『None But the Righteous: The Masters Of Sacred Steel』
先ほど、ライヴ・レヴューのコーナーで、BOKANTÉでラップ・スティール・ギターを弾くローズヴェルト・コリアーをセイクレッド・スティールのシーンから登場したミュージシャンと紹介しましたが、そのセイクレッド・スティールを特集した『None But the Righteous:The Masters Of Sacred Steel』というアルバムがあります。その中から、オーブリー・ジェントの「Amazing Grace」を聴いてください。このスティール・ギターはすごいでしょう? そもそもセイクレッド・スティールとは、アメリカ南部の一部の教会、ペンテコステ派の中のさらに小さな宗派ですが、その教会で、ピアノやオルガンの代わりにスティール・ギターで演奏されるゴスペル・ミュージックのことです。デレク・トラックスも大好きなセイクレッド・スティールは、かなり古くから存在してはいたようですが、一般的には全く知られていませんでした。1997年に、アーフーリー(Arhoolie Records)というレーベルが出したコンピレイション盤『Sacred Steel: Traditional Sacred African - American Steel Guitar Music In Florida』が話題になったことがきっかけとなって多くの音楽ファンに認知されるようになりました。2002年にローパドープ(Ropeadope Records)から出たこの『None But the Righteous:The Masters Of Sacred Steel』は、“メデスキ、マーティン&ウッド”のジョン・メデスキが監修したコンピレイションで、当時日本盤も発売されました。聴けばだれもがびっくりするような音楽で、もちろんゴスペルと言うからには調子のいい音楽なのは分かるけど、スティール・ギターでやるゴスペルという組み合わせに最初は目から鱗でしたね。
『None But the Righteous: The Masters Of Sacred Steel』
深いトレモロが特徴的なポップス・ステイプルズのギター
The Staple Singers『The Ultimate Staple Singers A Family Affair 1955-1984』
ゴスペルの話をしたところでもう一つ、ステイプル・シンガーズの『The Ultimate Staple Singers A Family Affair 1955-1984』をご紹介したいと思います。曲は1956年の「Uncloudy Day」に注目してほしいのですが、このギターは至ってシンプルなものです。でも、この音を一度聴いたら絶対に忘れません。後のギタリストにものすごい影響を与えたサウンドでもありますね。ステイプル・シンガーズはそのギタリスト、ポップス・ステイプルズが子供たちと結成した家族グループです。ポップス・ステイプルズはハウリン・ウルフと同世代で、やはりミシシッピの出身です。テレキャスターと思われるギターに、トレモロを深くかけた独特のサウンド。ゴスペルで、これだけブルージーなギターを弾く人は1950年代にはだれもいなかったと思います。それだけでも画期的な要素だったし、とにかくこのサウンドを出せるのは彼しかいないんですよ。このギターを聴けば、だれもが「ポップス・ステイプルズだ」と思うわけです。先ほどのライ・クーダーのほか、このサウンドの影響を受けた人はかなり多いはずです。いわゆる名人とかテクニックとかはさておき、こういうユニークなサウンドを持つこと自体の面白さについて考えさせられますね。
『The Ultimate Staple Singers A Family Affair 1955-1984』
細沢 結局、ギターの腕はそれほど上達しませんでしたが、当時住んでいた家の近くに楽器の卸しをしている店があり、そこで売り物にはならない傷物のギターをもらってきて直したりしているうちに、ギターを弾くことより、いじるほうに興味が出てきたんです。まだ中学生でしたが、友達のギターを改造したりしていました。大学卒業後はレンタル楽器の会社に就職しようと思ったのですが、手に職を持っていたほうがいいと聞かされ、ギターのリペアの勉強をしようと思い立ちました。当時は日本にはそんな学校もなく、探してみたらアメリカのアリゾナ州のフェニックスにRoberto-Venn School of Luthieryという専門学校でギター製作を教えているところがありましたので、そこに通うことにしました。プレーするほうは諦めて、ギターをいじりたくてこの業界に入ったわけです。
Artist Lounge TOKYOのオーナー店長、ヒロ細沢さん。長く楽器の販売やリペアに携わり、2004年からはTaylor Guitars初となる邦楽アーティストの担当に就任。HOTEI、コブクロ、福山雅治、MIYAVIなど多くのアーティストをサポート。また、ギター・テクニシャンとして小坂忠、鈴木茂、小原礼、西慎嗣らのライヴにも帯同している