A Taste of Music vol.502026 04

Contents

◎Movie Review
 
『KÖLN 75』

◎Recommended Albums
 
Keith Jarrett『The Köln Concert』, Dr. John 『Hollywood Be Thy Name』, Mulatu Astatke 『Ethio Jazz』, Charlie Megira 『Tomorrow's Gone』, Toumani Diabate『Kaira』, Les Rallizes Dénudés 『Jittoku '76』, Earl Hooker 『Calling All Blues』, Grateful Dead 『Recorded Live In Concert』, HARIKUYAMAKU 『Mystic Islands Dub』

◎PB’s Sound Impression
 
Haruchika Noguchi Memorial Music Room……SIEMENS Eurodyn, GARRARD Model 301, MARANTZ Model 7, MCINTOSH MC275 etc.

構成◎山本 昇

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Introduction

優れたオーディオ装置とともに
お薦めの音楽を紹介し続けて
記念の第50回は盟友をゲストに迎えた
スペシャル版!

 50回目のA Taste of Musicです。“ATOM”(アトム)という略称で呼んでいるこのWebマガジンは2013年のスタートから常に、いい音で音楽を聴きながら、その魅力を掘り下げるというスタイルを貫いてきました。皆さんのご協力により、試聴する場所は毎回違うけれど、それは贅沢な体験の連続でした。関東以外では新潟や山口、岐阜、愛知にも出張しましたが、毎回毎回、素晴らしいオーディオ装置で僕がお薦めする音楽を聴かせてもらい、感謝しています。これからもこの素敵な旅は続いていきますので、どうぞご期待ください。

 さて、今日の試聴は「野口晴哉記念音楽室」で行います。整体の第一人者であり、また音楽やオーディオにも造詣が深かった野口晴哉(はるちか)さんが遺したこの音楽室に、僕は以前にも訪れたことがあり、好きなレコードを聴かせてもらいました。現在は、野口晴哉さんの孫にあたる、全生新舎の野口晋哉(しんや)さんが管理するようになり、様々なイヴェントも開催されるなど、一般にも開かれた場となっています。後ほど、晋哉さんにもお話をうかがいます。

 そして、今回は第50回を記念して特別ゲストとして久保田麻琴さんをお呼びしました。アナログ再生に特化した「野口晴哉記念音楽室」で、互いにレコードを持ち寄って聴き、語り合いたいと思います。新しいオススメ映画のご紹介と併せ、今回も最後までお付き合いください。

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「野口晴哉記念音楽室」のアナログ・システムに耳を傾け、「贅沢な音やなぁ」と(なぜか関西弁で)しみじみと呟いたバラカンさん

PB’s Sound Impression

「野口晴哉記念音楽室」で聴く
アナログ・レコード
“聴く”と "聞く"の狭間へ

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「野口晴哉記念音楽室」を再起動し、興味深いテーマでイヴェントも開催している野口晋哉さんと

——ここからは、「野口晴哉記念音楽室」を管理し、イヴェントなどを企画・運営している全生新舎の野口晋哉さんにお話を伺います。

PB 冒頭にもお話ししたように、僕はこの音楽室に2度ほど来たことがあったのですが、それはもう20年以上前のことで、当時は晋哉さんの従兄弟にあたる晴胤(はるたね)さんに案内していただきました。僕が訪問したときから、変わっているところもあれば変わらないところもあるのでしょうね。

野口 バラカンさんがいらっしゃった頃は、私のおじがここを管理していまして、我々が大先生と呼ぶ野口晴哉が遺したオーディオ機器や家具はすべてそのままに維持していました。おじが亡くなり、10年くらい前から私がここ移り住むことになり、道場を運営しながら音楽室の管理にも携わっています。この音楽室も数年前は荷物の置き場のような状態で、なんとか本来の姿に戻したい、音楽をみんなで聴ける状態にしたいと思い、メンテナンスなどを始めて4年前にやっと音が出るようになりました。そこからさらに、ACOUSTIC REVIVEの製品も導入したりして、ようやく良く鳴り始めてくれたという感じです。

——キース・ジャレットの『The Köln Concert』が鳴った瞬間、久保田さんから「おお、いい音!」と声が上がりました。

久保田 時間をかけて調整してきたのだと思いますが、部屋自体の鳴りもいいですね。こうしてしゃべっていても気持ちがいい。天井や壁も、素材を含めて音の響きに気を遣って造っているのが分かります。私はここで録音したいくらいですよ。

PB 1950年代によくここまで造ったよね。部屋の設計の段階から音響を優先的に考えていたんでしょうか。

野口 設計については、ほかにブレーンがいたと思われますが、大まかなところはやはり晴哉が自分で考えていたようです。先日、彼の書斎から設計図が出てきたのですが、そこには彼の字でメモ書きがされていました。理想の音楽室をどう造るか、全体的な構想を練っていたようですね。

PB レコード棚にあるのはクラシックばかり?

野口 そうですね。奥の方に、サイモン&ガーファンクルなどロック・ポップスも少しあるのですが、本人のものか、あるいは彼の息子たちのものなのかは分かりません。

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天井や壁にも音響的な工夫を凝らした「野口晴哉記念音楽室」は広々として落ち着いた雰囲気。居心地の良さは格別

——晋哉さんはなぜ、この場所を再起動しようと思ったのでしょうか。

野口 一般的に晴哉は整体の名人として知られていますが、彼が生涯をとおして本当にやりたかったことはそれだけではありません。彼は道場での仕事のあと、ここに来て浴びるように音楽を聴いていたと言います。通常は仕事が終わってホッと一息の休息をここで過ごしていた、と思いがちですが、彼はオンとオフの切り替えはしていなかったんじゃないかと思うんです。というのも、彼にとって人に触れることと音に触れることって同じことで、そこに境目はなかったのではないか。一体彼は何に触れようとしていたのか、って言うのが僕の関心で、そこを整体で身体に触れるという側面だけで語ってしまうと、何か大事な部分を置き去りにしてしまうんじゃないかと。

PB なるほど。でも、仕事のほうでは晴哉さんに助けてほしい人が引っ切りなしに来たそうですね。音楽を聴く時間もあまりなかったのでは?

野口 朝の9時から夜の12時くらいまで本部の道場で人の身体をみて、12時過ぎに帰ってくると朝の4時か5時頃まで、ここで音楽を聴いたり執筆したりして過ごしたらしいんです。だから、毎日3〜4時間くらいしか寝ていたなかったようです。

PB 超人的な人だったんですね。

野口 普通じゃないですよね。いまは開いていますが、部屋の扉を閉めて一人、ものすごいヴォリュームで聴いていたらしいです。

PB まさに音を浴びていたんですね。その扉の向こう側にあるのがいまの道場ですね。整体の活動はどれくらいの頻度で行っているのですか。

野口 ほぼ毎日やっています。僕以外にも、父や弟、そして晴胤君が使うこともあります。

PB そして、この音楽室ではイヴェントも開催しているんですよね。

野口 はい。現在は月に2回ほど行っています。レコード鑑賞会や映画の上映会も催しています。

PB 映画もですか。

野口 はい。なぜか、この部屋にはスクリーンをかけられる仕掛けがあるんですよ(笑)。映画を観ることも想定していたんでしょうね。

久保田 映画館の息子なので、私にとってはこれが幼い頃から親しんだ環境です。スクリーンの後ろにはこういうスピーカーがあって……。閉館の際、それを遺せなかったことをずっと後悔しています。

野口 ここにあるのも劇場用。ドイツSIEMENSのEurodyn(オイロダイン)というスピーカーです。イヴェントでは、上映する映画の監督を招いて僕と対談させていただいたり、アーティストをお呼びして楽器の生演奏をしていただいたり。あるいはちょっとアカデミックなテーマを設けてディスカッションすることもあります。そして、昨年末にはこの部屋のとなりに「坐坐奔奔」(ざざほんほん)というブック・カフェをオープンしました。そこにもオーディオを持ち込んで試聴したり、ゲストと対談したり……。もはや得体の知れない場になりつつあります(笑)。

久保田 いいですね。「狛江カルチャーセンター」のような。

野口 そうなんです。どんな名称が相応しいのか、まだ名前は見つかっていないんですけども。ただ、僕がここでやっているのは野口晴哉という人物をもう少し多層的に見直して、分解していったときに出てくる周辺的な要素をテーマにお話しすること。決して整体の話はしません。本質を語らない代わりにその周りにあるフックだけを話し合う場所にしています。そうすると、みんなが勝手に本質に近づいてきてくれるんですよ。

PB レコード鑑賞会では、どんな音楽をかけているんですか。

野口 僕自身、ちょっとヘンな音楽が好きでして。現代音楽やフリー・ジャズなど音響的に変わった音楽が好きなレコード・コレクターやレコード・ショップの方に来ていただいて、彼らが選んだ音楽を流しています。セレクターには下井草のレコードショップ「PHYSICAL STORE」を主催するChee Shimizuさんや、以前A Taste of Musicも取材された八王子SHeLTeRの野嶌義男さんなどに担っていただいています。
 こうした鑑賞会には“リスニング・プラクティス”と銘打って開催しているものがあります。テーマは「“聴く”と“聞く”の境界線を曖昧にしよう」。つまり、意識して聴くことと、聞こえてくるものの境目に身を置いてみようということです。音にフォーカスするだけじゃなく、耳に自然に入ってくる音にも価値を見出し「耳を行き来」させる。そうすると、聴覚が変わってくるんですよね。

久保田 ああ、さっき私が言ったことと似てますね。私もなんかその部分が意外と大事かなって思っていて。以前は音が悪いと思っていたレコードが実はちょっといいなという、その味わいみたいなことに最近気が付いたところなので、お話はすごく良く分かります。

野口 例えばオーディオ・マニアと呼ばれる方たちは、音にフォーカスすることに専念しがちなのではないかと感じるんです。空間のことは頓着しない耳の在り方を求めていると言いますか。その点、僕らは音楽に浸る空間そのものが大事だと捉えています。

——ここではその空間を、装置の面ではアナログで構築しているのも特徴ですね。晋哉さんが感じるアナログの魅力とは?

野口 やっぱり空間性が変わることですね。デジタルはすごくきれいだし情報も細やかになりますよね。一方、アナログは何と言いますか、モワっとしたものが肌にシュワシュワっとくるような、あの感じはアナログ特有のものでしょう。そして、この状態に持って行けたのはACOUSTIC REVIVE製品の導入が大きいんです。本当に“空間”が変わるんですよ。音の情報量がめちゃくちゃ多くなるがゆえに、空間の情報量も変わってくる。この場所で行われる営みを下支えしてくれています。アコリバのおかげで、思い描いていた感じに近づくことができました。

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音楽室に隣接するブック・カフェ「坐坐奔奔」

——コンセプトがより明確になってきたと。

野口 そうなんです。

——久保田さんのプライヴェート・スタジオにも、ACOUSTIC REVIVEのケーブルなどが導入されたそうですね。以前と比べて音はどう変わりましたか。

久保田 いちばん分かりやすい変化は、音の輪郭が良くなったこと。それによって音像がよく見えるようになり、頑張って耳をそばだてなくても自然と音楽との距離が近くなる。おかげでストレスなく仕事を進めることができています。

——そして、久保田さんもかねてから、ライヴ・ミックスという手法で音楽空間の在り方を追求されています。

久保田 音楽は1ビートごとに音の世界が変わっていくわけじゃないですか。エンジニアも、本当はそれについて行かなきゃいけない。余計なお節介かもしれないけど、私はホールもミキシング・コンソールも含めて全部が楽器だと思っているので、すべて使い切るようにしたい。そして、できるだけ音楽とお客さんの距離を近付ける−−−そこは自分の信念として持ち続けています。

—— そのためのツールとして、アナログ・コンソールにこだわっていたのですね。

久保田 そうですね。もちろん、固定したチャンネルはあってもいいけど、例えばヴォーカルやギターなどは箇所によっていろいろ変化させてくるので、それをお客さんに通訳するには複数のフェーダーやツマミを同時に触らなければなりません。それもあって、私はアナログ卓にこだわっていましたが、デジタル卓もいずれアナログ卓のような操作が可能になるでしょう。

——晋哉さんは今後、この音楽室をどう育てていきますか。

野口 やはり、ここの主人は野口晴哉なので、身体性を大事にしていきたいと思ってます。空間が変わることは身体の経験として大事なことなんです。僕は整体をやっていますが、人の身体に触れているような状態にまで変わってくると感じられることもあるんです。トランペットならトランペットの音が自分の身体に触れてくるというか、そういう経験ができるような音を鳴らせられればいいですね。

PB 節目の“ATOM50”も、いい音を体験できて嬉しかったです。晋哉さん、麻琴さん、今日はありがとうございました。

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さり気なく掲げられた野口晴哉氏の遺影。優しくも鋭い眼差しで音楽室を見守っている

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レコード棚と家具、そしてヴィンテージなオーディオ機器が調和する音楽室の一画

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スピーカーは試聴したSIEMENS Eurodynのほか、WESTERN ELECTRIC 594A、JBL HL90、WESTREX T510Aなどもある

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訪れる人の耳を魅了する劇場用スピーカーのSIEMENS Eurodyn

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レコード・プレイヤーは1954年発売の名機GARRARD Model 301

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フォノ・アンプはPHASEMATION EA-200

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MARANTZ Model 7(プリ・アンプ)の脚にはACOUSTIC REVIVEの天然クォーツ・インシュレーターRIQ-5010(透明タイプ)とクォーツ・アンダーボードRST-38H

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パワー・アンプは真空管も美しいMCINTOSH MC275

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ACOUSTIC REVIVEの超低周波発生装置RR-777

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ACOUSTIC REVIVEの電源ボックスRTP- 2Finalと電源タップ用クォーツ・アンダーボードTB-38H

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ライン・ケーブルや電源ケーブルはすべてACOUSTIC REVIVEの製品が導入されている

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この日、集った皆さんと。右から3人目はACOUSTIC REVIVEの石黒謙さん

◎Today’s Playlist

①Keith Jarrett「Köln, January 24, 1975, Part I」〜『The Köln Concert』
②Dr. John 「New Island Soiree」〜『Hollywood Be Thy Name』
③Mulatu Astatke 「Yekermo Saw」〜『Ethio Jazz』
④Charlie Megira 「Yesterday, Today And Tomorrow」〜『Tomorrow's Gone』
⑤Toumani Diabate 「Jarabi」〜『Kaira』
⑥Les Rallizes Dénudés 「Dream Again Today」〜『Jittoku '76』
⑦Earl Hooker 「Blues In D Natural」〜『Calling All Blues』
⑧Grateful Dead 「Sugar Magnolia」〜『Recorded Live In Concert』
⑨HARIKUYAMAKU 「Machagama」〜『Mystic Islands Dub』

 

◎この日の試聴システム

スピーカー:SIEMENS Eurodyn
レコード・プレイヤー:GARRARD Model 301
フォノ・アンプ:PHASEMATION EA-200
カートリッジ:EMT TD15
プリ・アンプ:MARANTZ Model 7
パワー・アンプ:MCINTOSH MC275

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「野口晴哉記念音楽室」

所在地:東京都狛江市某所
https://www.instagram.com/zenseishinsha/
https://x.com/zenseishinsha

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