A Taste of Music vol.492025 08

Contents

◎Movie Review
 
『Eno』, 『Kiss the Future』

◎Recommended Albums
 
Weather Report『Heavy Weather』, Steely Dan 『Aja』, Talking Heads 『Remain in Light』, Penguin Cafe Orchestra 『Penguin Cafe Orchestra』, Paul Simon 『Graceland』, Chu Kosaka『HORO』, Makoto Kubota & The Sunset Gang 『Second Line』, Yukihiro Takahashi 『NEUROMANTIC』

◎PB’s Sound Impression
 
Ikushima’s listening room……JBL Paragon D44000, Technics SL-1200AE, McIntosh MC275, C2600 etc.

構成◎山本 昇

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Introduction

今年も開催!“Peter Barakan’s Music Film Festival 2025”

 僕らは今日、神奈川県大和市のとあるご家庭にお邪魔しています。JBLのバラゴンがドーンと構えるここは、「ディスクユニオンJazz TOKYO」の元店長、生島昇さんのリスニング・ルームです。以前、「晴れ豆」で開催したA Taste of Musicのイヴェントにゲスト出演してくれた生島さんは、2018年に脳出血を患いましたが、リハビリを経て現在も音楽のある生活を送っています。後半には、そんな生島さんに音楽やオーディオについてお話を伺います。

 さて、今年も僕の音楽映画祭“Peter Barakan’s Music Film Festival 2025”を東京・有楽町の「角川シネマ有楽町」で9月12日(金)から25日(木)まで2週間開催します。円安や物価高の影響で運営が難しくなったため、7月からクラウドファウンディングを実施したところ、おかげさまで目標額を大幅に上回る支援をいただきました。ありがとうございます。最終的なライン・アップは公式ホームページでぜひご確認ください。

 音楽関係の映画は単館上映で期間が短い作品も多いから、気が付かないうちに終わってしまい、「あー、やってたのか」っていうこともありますよね。そんな作品も、半年後とか1年後にもう一度フェスの形で集中的に上映すれば音楽ファンにも映画ファンにも注目してもらえます。この映画祭は今年で5年になりますが、僕らでなければ日本でやらないような作品も多く紹介しているから、「おお、待ってました!」というファンもいて回を重ねるごとに手応えを感じています。

 今回の上映作品を少し紹介すると、ジャニス・イアンのドキュメンタリー映画『ジャニス・イアン 沈黙を破る』(原題:Breaking Silence)がなかなか面白いんです。また、ニュー・オーリンズの伝説のピアニストでシンガーのジェイムズ・ブッカーの『ジェイムズ・ブッカー ニュー・オーリンズのピアノ王子』(原題:Bayou Maharajah)も上映します。片目にアイ・パッチをかけてファンクでもクラシックでも何でもやる人で、ドクター・ジョンもアラン・トゥーサントも絶賛するピアニストです。これもすごく面白いドキュメンタリー映画です。そして、このあと詳しくご紹介するブライアン・イーノの映画『Eno』を監督したギャリー・ハストウィットがプロデュースした作品で、彼の奥さんジェシカ・エドワーズが監督したメイヴィス・ステイプルズのドキュメンタリー映画『メイヴィス・ステイプルズ ゴスペル・ソウルの女王』(原題:Mavis!)も上映します。こちらもご期待ください。

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PB’s Sound Impression

生島邸のオーディオで聴いたベスト・アルバム
「ウェザー・リポートもポール・サイモンも、これまで聴いたことがないほどいい音でした」

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——ここからはバラカンさんと生島昇さん、そして石黒謙さん(ACOUSTIC REVIVE)の座談会をお届けします。

PB 今日はお招きいただき、ありがとうございます。

生島 ようこそ我が家へ。バラカンさんの『ウィークエンド・サンシャイン』(NHK FM)を毎週聴いています。往年のメインストリームを掘り起こすと言いますか、ルーツ・ミュージックを大事にしたいというコンセプトを感じています。今日の取材も楽しみにしていました。ちなみに、先ほど試聴したウェザー・リポートの『Heavy Weather』は僕が最初に買ったレコードでした。

PB おお、そうですか!

生島 クロスオーヴァーが流行った頃に雑誌『スイングジャーナル』を読んで(笑)。もう、ジャコ(・パストリアス)が加入しているアルバムですね。

PB そうです。ジャコは一つ前の『Black Market』(1976年)に2曲で参加して、『Heavy Weather』から全面的に参加しています。アルバムの共同プロデューサーにも名を連ねていますね。このあたりから、ウェイン・ショーターの影が徐々に薄くなっているでしょうか。

生島 (ジョー・)ザヴィヌルとショーターは仲が悪そうな感じでしたね。

PB そうかな?

生島 『Night Passage』(1980年)くらいまでを順番に聴いて、そんな印象を持ちました。

PB ふーん。まぁ、とにかくメンバーがよく入れ替わるグループでしたからね。ウェザー・リポートと言えば、最近出たムック『音楽Bar読本』でもお話ししましたが、僕が日本に来たばかりの頃、ジャズ喫茶で『Mysterious Traveller』をリクエストしたら、お客さんが半分くらい帰っちゃった(笑)。

生島石黒 ハハハハ。

生島 当時はチック・コリアの『Return to Forever』ですら帰ってしまう人がいましたからね。

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ディスクユニオン Jazz TOKYO初代店長の生島昇さん。JazzTOKYO RECORDSのプロデューサーも務める

PB やはり東京に来た直後に、ハービー・ハンコック率いるヘッドハンターズのライヴが新宿の厚生年金会館であったんです。ものすごくいいライヴだったんだけど、お客さんはおそらく半分も入っていませんでした。こういう音楽は日本ではあまり受けないのかなと、ちょっと寂しい感じがしたのを覚えています。

石黒 “ジャズ・ファンク”を知っている人がまだ少なかったんでしょうね。

PB そうですねぇ。ファンクが好きな人たちはハービーを聴いていないし、ハービーを聴いていた人たちはああいうビートについていけなかったのかも。

生島 ハービーはいろいろと手を変えすぎて、本当は何をやりたかったのか、あまりよく分からない人が多かったかもしれません。

PB ハービーもブライアン・イーノじゃないけど、好奇心が旺盛な人だからね。彼はデビューする前に、学校で電気工学を学んでいたんです。ミュージシャンでなければエンジニアになっていたかもしれません。いわゆるナーディな感じの人で、機械いじりが好きなんだそうです。

生島 スティーリー・ダンも素晴らしい録音ですね。マルチトラック録音のお手本のような音でした。

石黒 ミュージシャンをパーツとして使うようなやり方ですかね。その人の演奏を部分的に使いたいという。

PB そうそう。「Peg」でも有名なエピソードが残っていますね。この曲のギター・ソロでは何人ものギタリストをLA中から呼び寄せて弾いてもらうんだけど、ジェイ・グレイドンの演奏でやっとOKが出たと。まぁ、それだけこだわる人たちなんですね。

石黒 ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーは曲作りではどう役割分担していたんでしょう。

PB そのあたりはよく分からないけれど、スティーリー・ダン節というのはありますよね。「えっ、こんなメロディありなの?」っていうくらい変なメロディを作る人たちだなと思いました。聴いたことのない音楽だったけど、味をしめたらやみつきになってしまう感じで。最初はバンド編成だからライヴもやっていたし、僕もロンドンで観ました。『Pretzel Logic』(1974年)までの3枚はノリのいい曲が多かったから、もうご機嫌でしたね。でも、このライヴは1時間半くらい待たされたんだけど、あれは何だったんだろう。

生島 大物感を出そうとしたのでは?

PB そうかもしれないね(笑)。

石黒 私は1990年代に武道館でのライヴを観ました。驚いたのはメンバーがみなアルバムと同じ音を出していたことです。作り込んだアルバムだから、ライヴの再現は難しいんじゃないかと思ったんですが、やはりプロ中のプロはすごいなと。

生島 ピンク・フロンドとかもライヴでレコードと同じ音を出していましたね。

PB トーキング・ヘッズの「Once in a Lifetime」はもっと低音が利く大きなスピーカーで聴くほうがいいかなと思いました。そのほうがこのアルバムの良さがより生きるかなと。

生島 そうかもしれません。パラゴンは古いジャズやシカゴ・ブルースだと抜群に良く鳴るんですよ。

PB アクースティックな楽器を使った音楽のほうが合うんでしょうか。

生島 分解されたものよりはハモってる音のほうが得意なんですね。

PB なるほど。大変だなぁ、オーディオの世界は(笑)。

石黒 だから、いろんなスピーカーやアンプが存在するんですよね。

PB ポール・サイモン『Graceland』のLPも本当にいい音でした。

生島 かなりハマってましたね。

PB 今日聴いた中では、ポール・サイモン、ウェザー・リポート、スティーリー・ダンが特に相性が良かったと思います。

石黒 『Heavy Weather』はコロンビア・カーヴで聴きました。(編注:イコライジング・カーヴについてのトピックは、A Taste of Music Event ReportのVol.5Vol.6をご参照ください)

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生島邸のオーディオ・ルーム

ジャズとアイドル、そしてラジオ

PB 生島さん、ジャズはどのあたりから聴き始めたのですか。

生島 僕にとって音楽のルーツはフュージョン/クロスオーヴァーなんです。ちょうどブームでもありましたので。先ほども言いましたように、最初に買ったLPがウェザー・リポートの『Heavy Weather』でした。ここからウェイン・ショーターやハービー・ハンコックに遡り、やがてモダン・ジャズなどメインストリームと言われる部分を聴くようになりました。すると今度はエッジにいるような人たち……ドルフィーやロリンズ、ローランド・カークあたりが気になりだして。25歳の頃にLAを訪れる機会がありまして、当時はたくさんあった街のレコード屋さんに立ち寄ってみたんです。そのとき、お店の親父さんが薦めてくれたのがユセフ・ラティーフのアルバムでした。

PB ほう。どのアルバムですか。

生島 『Psychicemotus』(1966年)です。ユセフは変わった楽器も吹いているんですが、すごく気に入りました。これをきっかけにフリー・インプロヴィゼイションとかロフト・ジャズに段々寄っていきました。

PB そうですか。このアルバムは持っていないけど、僕もユセフは好きだなぁ。この時期、イギリスのテレビで週に1回放送していたジャズの番組で、確かキャノンボール・アダリーのグループにユセフがメンバーに入っている映像を観たら、それこそ変な楽器を吹いていて。僕はまだ10代の半ばでしたが、面白い人がいるなと思いました。

生島 面白いですよね。ジャズって、いろんなスタイルを持った表現者が集まってできているんだなと気付かされました。

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PB なるほど。

生島 その後、縁があってディスクユニオンに就職することになりました。

PB ディスクユニオンには何年くらいいましたか。

生島 35年以上いましたね。

PB ずっとジャズの担当で?

生島 はい、ジャズの店ばかりでした。

PB 毎日のようにジャズを聴いていたわけですね。

生島 お客さんに薦めるからには聴いておかなければなりませんからね。また、メインストリームとなるものも時代によって変わってくるじゃないですか。そのあたりもちゃんと知ってなくちゃいけないという気持ちもありました。

PB ジャズは他のジャンルと比べても、好き嫌いが分かれるものが多いですよね。仕事とは言え、全部聴くのは辛くなかったですか。

生島 そうですね。いま思うと、ジャズのリスナーは「これはジャズじゃない」とか、そういう言い方をする人が多かったですね。「ジャズじゃなければ何なんですか」って言うと喧嘩になってしまう(笑)。

PB フフフ。それって日本独特の現象ですかね。

生島 かもしれませんね。

PB そもそもディスクユニオンにはどんなきっかけで?

生島 ウィントン・マルサリスを保守的だと批判したレスター・ボウイが好きだったんです。アート・アンサンブル・オブ・シカゴもよかったけど、ブラック・ミュージックのカヴァーをやっていた……。

PB ブラス・ファンタジー?

生島 はい。レスター・ボウイ・ブラス・ファンタジーもすごく好きで。当時、そのアルバムをDIWというレーベル(DIW Records)が出していまして、これがディスクユニオンのレーベルだったので興味を待ちました。

PB なるほど。DIWも一時期はすごく活発にレコードを出していましたね。

生島 デイヴィッド・マレイなどロフト上がりのアメリカのミュージシャンの作品にもすごく力を入れていました。

PB 結局、いちばん好きなジャズはどのあたりですか。

生島 やっぱりいまもフリー・インプロヴィゼイションが好きです。実は最も衝撃を受けたジャズ・アルバムはデレク・ベイリーの『Solo Guitar』なんです。個人的にはジョー・パスの『Virtuoso』よりもずっと上だと思っています。

PB 完全即興ですよね。ジャケットもすごいな(笑)。ちょっと聴いてみていいですか。

生島 もちろんです。このアルバムは音もすごくいいんですよ。

[「Improvisation 4」を試聴]

生島 ラジオではかからないですよね(笑)。

PB ハハハハ。基本的に一人で聴くものかな。

生島 店で流すと「おーい、ジャズをかけろ」って怒られました(笑)。でも、私はこの流れでギター・セッションに興味を持ち始め、ずいぶん外れてジェリー・ガルシア&デイヴィッド・グリスマンといったデュオも聴くようになりました。わりと適当な感じではありますね。でも、こういうつまみ食いがいちばん面白いと思っています。

PB 確かに、これを聴くと「ジャズとは何か」という議論が巻き起こるのは分かります。

石黒 一瞬、オーディオが壊れたかと思いました(笑)。

PB フュージョンから入って遡って、ここに到達するというのは、生島さんにとって自然な流れだったのでしょうか。

生島 ちょっとこじつけかもしれませんが、オーディオが好きだったこともあり、音色とか楽器本来の響きとか、ハーモニーといったものにすごく耳が向かっていたというのはあったと思います。

PB なるほど。オーディオは昔からいいものを?

生島 いえ全然。最初はラジカセでしたから(笑)。

PB ではいつ頃から本格的なオーディオに?

生島 高校生くらいからですね。日本ではその頃に空前のオーディオ・ブームがあり、親をなんとか騙して(笑)。あと、音楽にハマったのはラジオが大きかったんです。糸居五郎さんのDJを勉強の合間にしょっちゅう聴いていました。彼の番組では洋楽もたくさんかけていて、「世界にはこういう音楽があるんだ」と教えられました。その影響で、いまでもマディ・ウォーターズも聴いています。

PB 糸居さん、そんなのもかけていましたか。

生島 はい。バンバンかけていました。

PB その時代の日本にいたかったな(笑)。

生島 のっけから「今日はジェームズ・ブラウンの新譜を持ってきたぜ!」ってご機嫌で(笑)。そして、気が向くと先ほどのトーキング・ヘッズとかもかけていましたね。

PB あ、そうですか。当時の日本では珍しかったんじゃないかな。

生島 そうだと思います。その頃はまだGSや歌謡曲が主流で、夜中なんて演歌しかかかりませんでしたから(笑)。岩崎宏美の『ファンタジー』(1976年)というアルバムには糸居五郎さんのDJ風のナレーションが入っているんです。ちょっとかけていいですか。

[「パピヨン」を試聴]

PB ほう、こういう感じですか。僕は初めて聴きました。1976年ということで、ディスコっぽくやっているんですね。

生島 はい。その次はAORのブームがやって来て、私も聴いていましたけど、よく考えたらこのあたりも糸居さんはラジオでかけていました。本当に何でもかかる番組で、あれを聴けたのは良かったと思います。いまのサブスクに近いくらい、いろんなものが聴けましたから。

PB 一晩中かけていたんですか。

生島 「糸居五郎のオールナイトニッポン」は深夜1時から朝の5時までずっとノンストップで、ご自身でターンテーブルを回していたそうですね。

PB 深夜だからかなぁ。日本のラジオはDJにそういうことはさせないもので、しゃべる人はだいたいブースの中に入りますからね。InterFMは違うんですけれど。

生島 当時の日本はまだフォークの時代でもありましたが、逆に言えば洋楽が格好いいと思われてもいました。ビートルズはみんな聴いていたけれど、そのうちにストーンズを聴く人も増えてきて、そこからルーツを遡ってブルースに辿り着く人も少しずつ現れていました。そんな様子を僕はずっと眺めていました。

PB 一方でアイドルものも好きだったんですね。

生島 はい。私にとってアイドルと言えばキャンディーズです。このキャンディーズ・サウンドも、糸居さんがかけていたクール&ザ・ギャングやスリー・ディグリーズ、グラディス・ナイトといった洋楽をなぞっているのが分かるんです。アイドルものも侮れないと思いました。キャンディーズのバックはスペクトラムの前身であるMMP(ミュージック・メイツ・プレイヤーズ)。ブラス・ファンクそのものですから。では「春一番」を聴いてみてください。コーラスは完全にモータウンなんですよ。

[「春一番」を試聴]

PB 少しテンポを落とすともっと良さそうだけど(笑)。速すぎて余裕がないというか。それにしても、ユセフ・ラティーフとかデレク・ベイリーの傍らでこういうのも聴いていたんですね。

石黒 極端ですねぇ(笑)。

生島 あの時代はみんな格好つけて難しい音楽聴く一方で、こういう歌謡曲も聴いていたと思いますよ。

PB ハハハハ。なるほど。

生島 でも、いまになっていろいろ聴き直してみると、歌謡曲も例えば当時のプログレのフレーズを押し込んでいたり、制作に携わった人たちはすごく考えて作っていたんだなと思います。

石黒 うん、歌謡曲はある意味でチャンポンでしたからね。しかも、打ち込みがない時代だから、いろんな楽器を駆使して……。

生島 DIYの精神ですよね。

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パラゴン・スピーカーの圧倒的な存在感

PB 今日はとにかく、こんなコンパクトな部屋に巨大なパラゴン(Paragon)があるのにまず驚きました。他にも、僕には何の箱なのか分からないものも含めて(笑)、相当なこだわりのある機材が揃っているようです。

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独特な構造を持つJBLパラゴンの開口部

生島 こだわりがあるとすれば、アンプやフォノイコに真空管を使っているところでしょうか。そして、このパラゴンは1975年製ですが、これを駆動するMcIntoshのMC275は1973年くらいのパワー・アンプです。

PB もう50年も前のモデルですね。それにしてもパラゴンはよくこの部屋に入りましたね。

生島 ドアがあと3ミリ狭ければアウトでした(笑)。パラゴンは3つに分解できてアタッチメントで組み立てるとこのようになるんです。全体で350㎏もあるので、木造家屋だと2階の部屋には置けません。ピアノが置ける床じゃないとダメなんですね。

石黒 しかし、JBLは家庭用にこんなすごいスピーカーをよく作りましたよね。

生島 ちょうどステレオのレコードが一斉に出るぞというときにJBLが作ったステレオ・スピーカーなんですね。

PB ということは1950年代ですね。このスピーカーはどういう構成なんですか。

生島 3ウェイ/片chという方式です。

石黒 後ろにウーファーがあって、前面の大きな開口部から低音が出て、しかも高域のドライヴァーも湾曲したキャビネットの内部で反響させているんですね。それを正面で聴くことでポッと音像が浮かぶという、わりと独自の音響理論ですね。

生島 それまでは部屋全体で音を回すという発想だったと思うんですが、これを作った人はスピーカーだけでステレオ音像を完結させたかったのかもしれません。先ほど聴いていい印象だったレコードは、細かい音が上手くハモっていたと思うのですが、このスピーカーのレイアウトの良さがあってこそでしょう。

PB 去年、松山の「Bar Epitaph」という音楽バーでイヴェントをしたんですが、そこにもパラゴンが置いてあって、お店のどこにいても音がいいという印象でした。パラゴンの上にある小さいスピーカーは?

生島 小さいのはイタリアのSonus faberというブランドのMINIMAです。これはこれで艶っぽくていい音がします。隣の四角いのはZu OMEN BOOKSHELF MKIIです。アメリカ西海岸のガレージ・メーカーですが、オーディオ好きの若いベンチャーの人たちが作っているスピーカーで、スカッとしたいい音が楽しめるんですよ。

ヴィンテージ機材を現代に甦らせるアコリバのアクセサリー

——パラゴンやMINIMAには透明なスパイク受けがありますね。

石黒 RIQ-5010Wという天然水晶のインシュレイターです。パラゴンは重たすぎて持ち上がらなかったので、ジャッキを使いました(笑)。

生島 水晶が割れてしまうかと思いましたが……。

石黒 意外と強いんですよ。

生島 この床はガッチリ造っているんですが、このバカデカいスピーカーをちゃんと座らせるためにはこういうアイテムを活用したほうがいいと思いました。

石黒 ダイレクトに置いてしまうと、床が鳴ってしまうんですね。それをアイソレートするためのアクセサリーなのですが、素材によっては素材の音が鳴ってしまうことがあるんです。RIQ-5010Wで使用している水晶は人間の可聴帯域よりずっと上に共振周波数を持っているので、人間には“水晶の音”が聞こえません。なので、極めて自然な質感の音が得られるというメリットがあります。

——Acoustic Reviveのケーブルについてはどんな印象ですか。

生島 ここにあるスピーカーやアンプは古いものですが、ヴィンテージ・マニアの間ではこれらを古いケーブルで繋ぐといいという話もあって、私もやってはみたのですが、すごく古くさい音になってしまいました。ところが、現代のブランドであるアコリバのケーブルを繋ぐと、古い機材が新しくなるんですよ。私はこの音のほうが断然いいと思いますね。だから、この部屋のメイン機材はアコリバです(笑)。

——このシステム、バラカンさんはどうお聴きになりましたか。

PB 先ほどから言っているように、このシステムに合うレコードもあれば、そうでもないレコードもありましたね。高級オーディオの世界では以前にも同じ体験をしたことがあります。これはなかなか難しいテーマで、満遍なく何でもいい音がするシステムというのはあるのかどうか。

石黒 バラカンさんのお宅にあるハーベス(Harbeth)はわりと何でも過不足なく鳴らすスピーカーです。いろんな音楽を平均的によく鳴らすんでしょうね。どこか突出していいものがあるわけではなく。

PB ただ、こういうシステムを持っていると、これでいい音で聴けるレコードを揃えたくなるのかもしれません。

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シーリング・スピーカーはフロア全体で8つ導入されている

生島 そうですね。まぁ、私からすると音源さえ良ければ、オーディオなんて何でもいいんです。

PB あー、なるほど。

生島 ここにあるオリジナル盤はラジカセに繋いで聴いてもすごくいい音がしますから。

PB そうですか。

——生島さん、そしてバラカンさん、石黒さん、今日はありがとうございました。

生島 いつもバラカンさんのラジオを聴いていますが、今日はそれともまた違ったレコード体験がありました。うちのパラゴンもご機嫌で(笑)、とても良かったです。

PB 今日は普段聴かないようなものもたくさん聴かせてもらいました。

生島 驚かれるのではと心配でしたが……。

PB いえいえ、楽しかったです。

生島 じゃあ、番組にリクエスト葉書を送っちゃおうかな(笑)。

PB ハハハハ。お待ちしてますよ。

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この日の試聴はすべてJBL Paragon D44000で行った

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今回の試聴で主に使用したレコード・プレイヤーTechnics SL-1200AE

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フォノ・イコライザーはSUNVALLEY SV-396EQ(左)とSV-EQ1616D

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TechnicsのターンテーブルSP-10mk3を巨大なキャビネットに収めたレコード・プレイヤー。「街の家具屋さんに無理を言って、10年くらい寝かせていた無垢のメープル材で作ってもらいました」(生島さん)

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SACDプレイヤーSA-11 S3のほか、CDプレイヤーは年季の入ったSONYも。「557ESDは1987年頃にアルバイトして買いました。いまでも音がいいので、修理をしながら使い続けています」(生島さん)

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いずれも真空管を搭載したMcIntoshのアンプ。プリ・アンプの C2600(写真上)とパワー・アンプのMC275

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レコード・プレイヤーはもう一台、英国製の名器GARRARD Model 301もある。「これは懐かしいプレイヤーです」(バラカンさん)

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カセットデッキNakamichi DRAGONではSP盤の音源など生島さんのコンピレーションを試聴した

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電源ケーブル(POWER SENSUAL-MD-Kなど)はもちろん、電源ボックスもACOUSTIC REVIVE(RTP-6とRTP-4)を使用。電源ノイズを除去する電源コンディショナーRPC-1KMも見える

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生島さんが愛用するACOUSTIC REVIVEのオーディオ・アクセサリー。ターンテーブルシートRTS-30とアナログ・スタビライザー PS-DBLP(全世界100個限定)

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天然水晶を使用したACOUSTIC REVIVEのインシュレイターRIQ-5010W(透明タイプ)

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部屋の隅に置かれているのはルーム・アコースティックを改善する話題の新製品ACOUSTIC REVIVE RHR-21

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この日の試聴でも使用したACOUSTIC REVIVEの消磁機RL-30MKIII(生産終了品)

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ジャズを中心にオリジナル盤も多い生島さんのレコード棚

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この日に集った皆さんと。後列は右から、生島さんの奥様の典子さん、ACOUSTIC REVIVEの石黒謙さん、小林貴子さん

◎Today’s Playlist

①U2 「Pride」〜『The Unforgettable Fire』
②Weather Report 「Birdland」〜『Heavy Weather』
③Steely Dan 「Aja」〜 『Aja』
④Talking Heads 「Once in a Lifetime」〜『Remain in Light』
⑤Penguin Cafe Orchestra 「Walk Don't Run」〜『Penguin Cafe Orchestra』
⑥Penguin Cafe Orchestra 「Salty Bean Fumble」〜『Penguin Cafe Orchestra』
⑦Penguin Cafe Orchestra 「Paul's Dance」〜『Penguin Cafe Orchestra』
⑧Paul Simon 「Diamonds on the Soles of Her Shoes」 〜『Graceland』
⑨小坂忠 Chu Kosaka 「ゆうがたラブ」〜『HORO』
⑩久保田麻琴と夕焼け楽団 Makoto Kubota & The Sunset Gang 「Roochoo Gumbo 〜 Hoodoo Chunko」〜『セカンド・ライン(Second Line)』
⑪高橋幸宏 Yukihiro Takahashi 「予感/Something in the Air」〜『NEUROMANTIC~ロマン神経症~』
[座談会]
⑫Derek Bailey 「Improvisation 4」〜『Solo Guitar』
⑬岩崎宏美 Hiromi Iwasaki 「パピヨン」〜『ファンタジー』
⑭キャンディーズ Candies 「春一番」〜『春一番』

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◎この日の試聴システム

レコード・プレイヤー:Technics SL-1200AE
フォノ・イコライザー:SUNVALLEY SV-EQ1616D、SV-396EQ
プリ・アンプ:McIntosh C2600
パワー・アンプ:McIntosh MC275
スピーカー:JBL Paragon D44000