A Taste of Music vol.482025 05

Contents

◎Movie Review
 
『Lead Belly - The Man Who Invented Rock & Roll』

◎Recommended Albums
 
Average White Band『AWB』, Ry Cooder 『Paradise and Lunch』, Bob Marley & The Wailers 『Live!』, Tom Petty & The Heartbreakers 『s/t』, Stuff 『Stuff』

◎PB’s Sound Impression
 
YAKIBEE……BOSE DS16F, Victor SX-DW7, LAB.GRUPPEN FP20000Q, CLASSIC PRO CP4100 etc.

構成◎山本 昇

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Introduction

伊勢崎の“もんじゃ焼き屋”で聴く僕の70年代ベスト・アルバム

 前回から半年ほどのご無沙汰となってしまいましたが、皆さんはお変わりありませんか。この冬は結構寒かったですけれど、僕は特に体調を崩すことなく元気に過ごして春を迎え、仕事のほうはラジオもテレビもイヴェントもいつもどおりに続けられています。去年を振り返れば、音楽フェス“LIVE MAGIC!”は10周年で一区切り。今年は次回に繋げるための小さなイヴェントを計画しています。来年からはフェスではなく、いわゆるコンサートの形式で復活させるつもりです。そして、今年も開催する音楽映画祭“Peter Barakan's Music Film Festival”(2025年9月12日~25日)の準備もぼちぼち始めています。ここで、ムックの紹介を一つさせていただくと、発売中の『音楽Bar読本』(ステレオサウンド)で巻頭インタヴューを受け、これまでに訪れた日本の音楽バーやジャズ喫茶、そして僕が理想とする音楽バーについて話しています。取材した場所は新宿の“rpm”という音楽バーでしたが、ここのサウンド・システムはすごくいい音でした。

 さて、今日はなんと、群馬県伊勢崎市のもんじゃ屋さん“YAKIBEE(やきべえ)”にお邪魔しています。スピーカーは天井に埋め込みで、音響は一見普通の店舗と変わりなさそうに見えますが、実は細部にこだわっているのだとか。そのあたりは後半のコーナーで、店主の内藤輝幸さんにお話をうかがいます。

 そして内容は前回に引き続き、僕の来日50周年のベスト・アルバムについてお話ししたいと思います。前回が1980年代の終わりから2020年代までだったので、今回はその前、つまり僕が日本に来た1974年から80年代にかけての10枚を選んでみました。収録時間の都合で、今回はその前半の5枚について、いつものように実際に音を聴きながらその魅力を語っていきますので、今日も最後までお付き合いください。

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ムック『音楽BAR読本』(別冊ステレオサウンド)

PB’s Sound Impression

店舗向けの天井スピーカーでもここまで鳴らせる!
「落ち着いて食事が楽しめて聴きやすいBGMですね」

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「YAKIBEE」店主の内藤輝幸さん(右)と

——ここからはバラカンさんに、「YAKIBEE(やきべえ)」店主の内藤輝幸さん、そしてお店の音響のチューニングなどを手掛けたAcoustic Reviveの石黒謙さんにお話をうかがっていただきます。

PB まずはここのサウンド・システムについて教えてください。鳴っているのは、天井に埋め込まれたスピーカーなんですね。

内藤 そうです。一般的な商業用スピーカーで、アンプもそれほど高級なものではありません。ところが、Acoustic Reviveの石黒さんに電源周りや機材をチューニングしてもらい、ケーブル類にアコリバ製品を使うと劇的に音が変わりました。スピーカー自体はどちらかというとドンシャリ傾向の音なんですが、中域もしっかり出て柔らかい音になっていると思います。

PB そうですね。聴きやすい音でした。

内藤 店の改装にあたり、音響にはそれほど大きな予算はかけられなかったのですが、それでもここまでの音にできたのは石黒さんの力のおかげです。同時に、オーディオにとって電源の大切さも実感しました。

PB それまでは、電源やケーブルを意識したことはなかった?

内藤 はい。多少の変化があるらしいことはなんとなく聞いていましたが、まさかケーブル1本でこんなに変わるとは思っていませんでした。いい音は、いいスピーカーやいいアンプがないと出せないものと思い込んでいましたが、電源タップやケーブルを変えるだけでこんなに良くなるというのはかなりのカルチャー・ショックでした。

PB 分かります!(笑)

内藤 石黒さんのご自宅の試聴室で、フォープレイの「Chant」を聴いてみたら、2本のスピーカーとは思えないような空間が表現されるのにビックリしました。また、何100回も聴いているレッド・ツェッペリンの「天国への階段」は別の曲と思うほど生々しく、しかもこれまで聞こえていない音が聞こえてきたんです。「これは何なんだろう」と驚きまして、やはりい音楽はいい音で聴きたいと思うようになりました。音楽への向き合い方が大きく変化することになりました。

PB なるほど。ところで、このお店は何年くらい営業しているのですか。

内藤 27年前に義理の父が始めた店を、数年後に僕が引き継ぎました。

PB では、内藤さんになってからすでに20年以上が経つのですね。かつてはDJもしていたとか。

内藤 はい。子供が産まれてからはしばらくやってなかったのですが、最近また回してみたいなと思いまして、久々にレコードを買いに行ったりしています。

PB 最近はどんなレコードを?

内藤 バラカンさんもベスト・アルバムに挙げていらっしゃったマシュー・ハルソールの『An Ever Changing View』(2023年)とか。

PB ほう、マシューお好きですか。

内藤 はい。曲を聴いてもうドンピシャで。

PB それは嬉しいな(笑)。

内藤 久々に素晴らしいアーティストが登場したなと思いました。

PB お店でもかけていますか。

内藤 はい。BGMとしても結構合っていると思います。

PB そうですね。場が落ち着く感じがします。

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「いい音楽をいい音で聴き続けると、仕事の効率も向上しますね」(内藤さん)

本場のクラブ文化を体験しにニュー・ヨークへ

PB DJに興味を持ったきっけかは何でしたか。

内藤 まだ10代の頃ですが、兄に芝浦のクラブ「Gold」に連れて行ってもらったことがきっかけでした。それ以来、クラブ文化にハマって、本場の音とラリー・レヴァンのプレイを聴きたくて19歳でニュー・ヨークに出かけたりしていました。

PB ニュー・ヨークのラリー・レヴァンというと場所は……。

内藤 常駐していた「パラダイス・ガラージュ」の閉店後は「シェルター」というクラブでも回していて。もう30年以上も前の話ですけれど、僕がラリーを観たのもシェルターでした。

PB もうハウスの時代ですね。

内藤 はい。ハウス・ミュージックが浸透し、ジャンルとして確立した頃です。

PB 踊るのが好きだった?

内藤 そうですね。あと、あのような空間で音楽がエンドレスに鳴り続けるという状況が好きでした。

PB 「Gold」は僕もピークを過ぎた頃だったけど、行ったことがあります。映画『戦場のメリークリスマス』でプロデューサーを務めたジェレミー・トマスが日本に来たとき、連れて行ってくれないかと頼まれたんです。湾岸のちょっと辺鄙なところにあって、やっとの思いで辿り着いたら、ドアの前の男に止められてなかなか入れてくれないんです。もうあきらめようと思ったところでなんとか入れてくれたんだけど、お客なんて数人しかいなかった。夜の9時くらいだったと思うけど、ちょっと早すぎたのかな。

内藤 そうですね。大体12時くらいから増えていって朝までというのが……。

PB そうか。健全な生活をしていた僕には考えられないね(笑)。

内藤 僕にとってサウンドに対する興味はそんなクラブ文化からの影響もありましたが、音質のことをちゃんと理解できたのは石黒さんとの出会いが大きいです。

シーリング・スピーカーで目指した高音質

PB お店のサウンド・システムを見直すようになったのはいつ頃からだったのですか。

内藤 4年に店内を改装することになりまして、音響については当店のお客様でもあった石黒さんに相談させていただきました。

石黒 常連というほどではないのですが、たまたま自宅が近くにあって、このお店には先代がやられている頃から来ていましたので、ぜひ協力させていただこうと。先代は焼き方に大変こだわりがある方で、上手く焼けなさそうなお客にはずっと張り付いていました(笑)。

内藤 そうでしたね(笑)。

PB 改装にあたり、音楽はどのように採り入れようと思ったのですか。

内藤 より食事を楽しめる空間にしたいという思いがありました。食事を楽しく演出するために何ができるか、という発想で。目指したのは「聴いていて疲れない音」です。

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左はAcoustic Reviveの石黒謙さん

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シーリング・スピーカーはフロア全体で8つ導入されている

PB 音楽はどんなふうに選んでいるのですか。

内藤 バーのようなお店とは違って食事がメインなので、それに相応しい曲を自分なりに選曲しています。お客様は音楽に詳しい方ばかりではないので、分かりやすい曲も入れたりしています。例えば1980年代のマイケル・ジャクソンやマドンナをジャズ風にアレンジしたものとか。

PB お客さんの層としてもそのあたりが響く人が多いですか。

内藤 そうですね。50代の方も多いです。

PB 音楽の話で盛り上がることも?

内藤 はい。音楽好きな方もよくご来店いただいています。また、最近は若いカップルのお客様も増えてきて。「なんか音がいいですね」と言っていただけることもあるんですよ。

PB ああ、気付いてくれるんですね。

内藤 そうなんです。お話の邪魔にならないよう、音量は抑えていますが、この空間全体で鳴っているのが耳にスーッと入ってくるのを感じてくださる方もいらっしゃいます。

石黒 音が良くなると、不思議と会話もしやすくなるんですよね。

——そのあたり、石黒さんはどんなポイントでチューニングしていったのですか。

石黒 店内に満遍なく、バランス良く音が広がるようなシーリング・スピーカーの配置を考えました。そして電源周りやケーブル類のクオリティを上げれば歪みが減っていきます。ノイズが乗ったり、歪んだりすると余計に音がうるさくなってしまい、会話も邪魔してしまうんです。とにかくそこを取り除くことを心掛け、音量が少なめでも聴きやすくて、上げても楽しめるようになりました。結果として、居心地のいい音響空間ができたのではないかと思います。簡単そうに見えて、シーリング・スピーカーでここまでやるのは実はなかなか難しいことなんです。

——天井のスピーカーはいくつあるのですか。

石黒 テーブルのある広いフロアに6つ、掘り炬燵のあるところに2つの計8発です。さらに、低域を補うためのサブ・ウーファーも導入しました。

PB ですよね。ウーファーがないと、さすがにこの低音は出ないんじゃないかと思ってました。

——音楽はモノラルじゃなく、ステレオで鳴っていますね。

石黒 はい。業務用の8chアンプを使ってステレオで鳴らしています。実はここも大事なポイントで、スピーカーの配置を間違えると位相がうねって気持ち悪くなってしまうのですが、どこで聴いてもステレオ感が得られるように工夫しています。位相が合えば、全体に囲まれつつ、ステレオ感も楽しめるんです。

PB なるほど。

石黒 それをもんじゃ焼き屋さんで実践できたのは面白い試みでしたね(笑)。

PB うん。音楽イヴェントもできそうじゃないですか。

内藤 はい、そうですね。

PB 店内の壁には素敵な写真が飾ってありますが、これは内藤さんのお兄さんの作品だそうですね。

内藤 はい。兄の内藤カツは40年以上前にアメリカに渡り、ニュー・ヨークのハーレムを拠点に活動しています。兄の写真はポートレイトが中心なのですが、この店のために、風景写真を中心に提供してもらいました。

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どの位置で聴いても良好なステレオ音像が楽しめる

伊勢崎の「もんじゃ焼き」

PB ところで、群馬県の伊勢崎市で「もんじゃ焼き」って珍しいのでは?

内藤 実は伊勢崎は「もんじゃの町」と言われるほど、もんじゃ焼き屋さんがたくさんあったんです。

PB そうなんですか。

石黒 このあたりでも、昔は駄菓子屋には必ず鉄板があったりして、子供のおやつとしても親しまれていました。小麦の食文化が盛んな土地で、小麦粉を使った焼き饅頭や「もんじゃ」などを食べる習慣が根付いていました。もんじゃと言えば東京の月島が有名ですが、疎開で群馬あたりに来た人がこれを覚えて持ち帰ったという説もあるくらい、昔から多くの家庭で食されていました。ただ、昔は「もんじ焼き」と言っていたんです。

内藤 小麦粉を水で溶いたものを、鉄板に文字を書きながら焼いたスタイルがルーツだったようですね。

PB もんじゃを美味しく焼くコツは?

内藤 昔のもんじゃは具材が少なかったので土手をつくる必要はなかったのですが、いまのもんじゃは土手をつくって火が通りにくいものから加熱していくのがセオリーです。焼くときは強火で、焼き上がったら弱火にして美味しいうちに食べるのがコツですので、2人よりも4人とか、大人数のほうがより楽しんでいただけると思います。

石黒 私はいつもダムを決壊させてしまうんですけれど(笑)。

——バラカンさんは、今日のもんじゃ焼きやお好み焼きといったいわゆる“粉もの”はよく召し上がりますか。

PB 僕は小麦粉の食文化で育った人間だから、パンはほぼ毎日食べています。何10年か前にニュー・ヨークでベーグルに出会って好きになり、朝食の定番になりました。お好み焼きやたこ焼きはたまにいただくけど、もんじゃ焼きはあまり食べる機会がなかったので、今日は楽しみにしています(笑)。

内藤 お口に合うか分かりませんが、ぜひお楽しみください。バラカンさんはシラスがお好きと伺って、ちょうど季節メニューの「シラスもんじゃ」もご用意しました。

PB それは嬉しいですね! ありがとうございます。

——では最後にお店のPRを。

内藤 日本一音がいい、もんじゃとお好み焼き屋を自負しています。サウンドと同様に食材にこだわり、多国籍なお料理と融合させるなど、もんじゃの可能性に挑戦しています。初めていらっしゃる方がハッとするような面白いメニューも揃えていますので、伊勢崎にお越しの際はぜひお立ち寄りください。

石黒 もんじゃ焼きの進化形が楽しめます!

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取材を終えて季節メニューの“シラスもんじゃ”を堪能するバラカンさん。「これはおいしいですね!」

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テーブル席のある広いフロアは6つの天井スピーカーでカヴァー

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掘り炬燵の一角にも2つの天井スピーカーが埋め込まれている

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白と黒を基調とする落ち着いた内装に、写真家・内藤カツさんの素敵なモノクロ作品が映える

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厨房のそばに設置されている音響機材のラック。DAコンバーターのSMSL VMV D1、TOPPING D10s。スプリッターとして使用しているステレオ・ディストリビューターART MX225など

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オーディオ・グレードのコンセント&インレットを採用する電源ボックスYTP-6RYTP-4R、高性能電源ケーブルPOWER STANDARD TripleC-FMなどAcoustic Reviveのオーディオ・アクセサリーを多数使用。音源を送り出すMacBookには同ブランドのUSBケーブルR-AU1-PLが接続されていた

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パワー・アンプは4ch仕様のLAB.GRUPPEN FP20000Q、CLASSIC PRO CP4100を使用

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天井埋め込み型スピーカーは高音質かつ耐久性の高いBOSE DS16F

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レコーディング・スタジオにも採用されるAcoustic Reviveの超低周波発生装置RR-777が設置されている

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フロアの中央には低音を補強するサブ・ウーファーVictor SX-DW7も

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好物の日本酒を物色中

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右からAcoustic Reviveの石黒さん、小林貴子さん、バラカンさん、YAKIBEEの内藤さん、奥様の美華さん、お店の音楽アドヴァイザーの松島隆之さん

◎Today’s Playlist

①Average White Band 「Work to Do」〜『AWB』
②Ry Cooder 「Ditty Wah Ditty」〜『Paradise and Lunch』
③Bob Marley & The Wailers 「No Woman, No Cry」〜『Live!』
④Tom Petty & The Heartbreakers 「American Girl」〜『s/t』
⑤Stuff 「(Do You) Want Some of This」〜『Stuff』

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◎この日の試聴システム

スピーカー:BOSE DS16F
サブ・ウーファー:Victor SX-DW7
パワー・アンプ:LAB.GRUPPEN FP20000Q、CLASSIC PRO CP4100
DAコンバーター:SMSL VMV D1、TOPPING D10s

YAKIBEE(やきべえ)

伊勢崎名物のもんじゃ焼きはもちろん、お好み焼きに広島焼き、たこ焼きもすべてのテーブルで楽しめる。豪華な鉄板焼きを含んだコース料理も提供中。

〒372-0801 群馬県伊勢崎市宮子町2873
Tel.0270-23-0500

営業時間:◎火曜~金曜: 11:30~14:30 (料理L.O. 13:50 ドリンクL.O. 14:20) 17:30~22:00 (料理L.O. 21:20 ドリンクL.O. 21:40)◎土曜、日曜、祝日: 11:30~15:00 (料理L.O. 14:20 ドリンクL.O. 14:40) 17:00~22:00 (料理L.O. 21:20 ドリンクL.O. 21:40)
定休日:月曜・第1火曜
https://yakibee.owst.jp/