A Taste of Music vol.082014 10

by Yukimu
image Contents

◎特集「アナログ・レコード試聴!」
 
ゲスト:和田博巳さん
 
 

◎Recommended Albums
 
GRATEFUL DEAD『Live/Dead』
ROD STEWART『Every Picture Tells A Story』
LITTLE FEAT『Dixie Chicken』
 

◎Coming Soon
 
STANTON MOORE JAZZ TRIO

構成◎山本 昇

Introduction

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 こんにちは、ピーター・バラカンです。いつものように、まずは前回のA Taste of Music Vol.07“Coming Soon”でご紹介したライヴについて、僕が実際に観た印象を少しお話ししましょう。この夏、僕は初めて“SUMMER SONIC”に行ってきました。目当てはロバート・プラント率いるセンセーショナル・スペース・シフターズです。バンドのメンバーがみんな活き活きとしてかっこよく、とてもいいライヴでした。

 ガンガンにロックしている曲もあればフォーキーな曲もあり、デイヴ・スミスのドラムはジョン・ボナムのようなタイプではなく、ルーツな感じの叩き方。全体として、とてもバランスのいい演奏だったと思います。プラントは今年で66歳だけど、声はとてもよく伸びていました。このツアーではレッド・ゼペリンの曲も数曲やることになっていたようですが、これがぜんぜん嫌味じゃない、っていうのも変な言い方ですが(笑)。

『Lullaby And... The Ceaseless Roar』、つまり“子守歌、そして終わりなき雄叫び”という(笑)、ちょっと変わったタイトルのニュー・アルバムでは、トラディショナルな曲もロックふうにアレンジしつつ、ジャスティン・アダムズと、ガンビア出身の一弦フィドル奏者ジュルデー・カマラのアフリカ的なグルーヴが加わるんですが、曲によってはボー・ディドリーっぽかったり、同時にトラディショナル・フォークの味わいがあったりして面白い。とてもいいアルバムだと思います。

 でも、バックの演奏はとても良かったですね。特にサックスのリッチー・バックリーはヴァン・モリスンのバックもやっている人ですが、メアリー・ブラックのヴォーカルを上手に補ったりする兼ね合いがすごく良かった。彼女はとてもいいミュージシャンに恵まれている歌手だと思いました。なお、コーラスで参加していたのが娘のロシンなのですが、将来がとても楽しみな歌手です。

アナログ・レコード試聴! ピーター・バラカン×和田博巳

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 さて、今回のA Taste of Musicはユキムの試聴室からお届けしますが、ちょっと趣向を変えて、オーディオ評論家の和田博巳さんをゲストにお迎えし、アナログ・レコードの魅力を掘り下げてみたいと思います。

ピーター・バラカン(以下;PB) 和田さんはライヴもよく観ていますよね。
和田博己(以下:和田) できる限り足を運ぶようにしています。仕事の都合で、前もって行きたいと思っていたライヴに行けない場合もあるけれど、逆にこの日の夜は何も予定がないと分かればその時にやっているライヴを調べて観に行ったりしています。先週も、コットンクラブでジェーン・モンハイトを聴きました。最近のジャズ・ヴォーカリストって、美人で下手くそな人ばっかりでしょ?
PB ハハハ。けっこういますね。

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実力派ジャズ・ヴォーカリスト、ジェーン・モンハイト。
Photo by Y. Yoneda 写真提供 / COTTON CLUB

和田 ジェーン・モンハイトは巨漢ですけど、歌が上手いんですよ。バックのピアニストはもう10数年も一緒にやっている人だし、ドラマーは旦那さんだから、ものすごくアットホームな感じのいいコンサートでした。で、明後日にはスタンリー・スミスを観に行きます。今、目の前に濱口祐自のレコードがあるけれど、スタンリー・スミスも57歳でデビュー・アルバムを出した遅咲きの人。バッファロー・レコードから出たCDがすごくよかった。
PB スタンリーは来日も果たして、音楽好きの間ではそこそこ注目された人ですが、とても味わいのあるミュージシャンです。二人とも、音楽活動自体はずっと続けていたんですけどね。
和田 そう。キャリアは長いんだよね。
PB ところで、和田さんが通うライヴ会場はどんなところが多いですか。
和田 ジャズのライヴは、インストゥルメンタルならば、なるべく生音で聴きたいんですよ。コットンクラブやブルーノート東京は、生音だけで聴くにはやや大きいけれど、ホールに比べれば小さいから、PAも生音を補う程度に抑えられているのでよく観に行っています。PAの音しか聴こえないなら、大規模な野外コンサートと変わらないからね。

アナログ盤試聴①
Grateful Dead『Live/Dead』

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PB では、ここからはアナログ・レコードを聴きながら思い付いたことなどを、和田さんとお話ししていきたいと思います。今回はリマスター・レーベルのモービル・フィデリティの重量盤などから、僕が聴いてみたいレコードを選んでみました。アナログも、せっかく聴くならいい音で、ということですね。まずはグレイトフル・デッドの『ライヴ/デッド』から1曲目の「ダーク・スター」を聴いてみましょう。1969年の録音ですが、こんなにいい音なんです。
和田 ライヴの音とは思えないね。この曲は1972年頃、僕ら“はちみつぱい”でカヴァーしていました。
PB そうなの? それは大胆だな(笑)。
和田 フレーズは簡単なんだけど、単調にならずに延々と何十分もやるのはなかなか大変でした。でも、これは本当にいい音だ。
PB グレイトフル・デッドは、誰よりも早く自らのライヴをほぼ毎回録音していて、しかも、ライヴに携わるエンジニアを60年代当時から雇っていたというのが珍しい。
和田 さらに言うと、専用のPAシステムを自分たちで作り上げているんだよね。
PB そうそう。彼らのLSDを調達していたことでも知られるアウズリー・スタンリーはオーディオ・マニアで、特殊なスピーカーを作っていたらしいです。僕がロンドンで観た1974年のツアーでは、“ウォール・オヴ・サウンド”といって641台のハイ・ファイ仕様のスピーカーをステージに積み上げていましたが、ものすごくいい音でした。
和田 しかも、ハウリングを防ぐため、ヴォーカル用に逆相にしたマイクを2本用意して、スピーカーからの音をキャンセルして歌だけを通していた。すごいよね。彼らの周辺には他にも、後に楽器メーカーのアレンビックを創るエンジニアもいたりする。デッド・ファミリーはほとんどがヒッピーだけれど、テクノロジーに関してはものすごい最先端を行っていたわけですね。
PB とても美しい実験だけど、お金もかかって大変だったみたいですね(笑)。それはさておき、このオーディオ・システムで聴くデッドもいいですね。モービル・フィデリティの重量盤ということもあるのかもしれないけれど、各楽器の輪郭がクッキリしたこの感じは今までに聴いたことがないです。ベースの音もそうだけど、このリズム・ギターの音はすごい。中域を中心に、すごくいい音がしていますね。
和田 もう暗記するほど聴いたアルバムだけど、やっぱりデッドは美しいね。
PB 僕はこの『ライヴ/デッド』からリアルタイムで聴き始めたんですが、これが好きになったことで、あとはもうとことんいっちゃいました。フィル・レッシュの独特なベースもいいですね。
和田 そうだね。ベース・ラインといえば、ふつうはドラムのキック(バス・ドラム)にタイミングを合わせて弾くものだけど、フィル・レッシュはそれにとらわれず、ウネウネと自由に弾いていきます。ただし、和声の中でのラインは絶対に外さないからミス・トーンはない。同じパターンを繰り返すようなふつうのベース・スタイルとは全然違っていますが、そこが素晴らしいんですよ。

アナログ盤試聴②
Rod Stewart『Every Picture Tells A Story』

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PB 次はロッド・スチュワートの『エヴリ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー』です。なぜこのアルバムなのかというと、僕はロックでこれほどアクースティック・ギターが面白く使われている例があまりないと思っているんです。
和田 このしゃがれたハスキー・ヴォイスを最初に聴いたときはびっくりしたなぁ。
PB 確かに、この時期のロッドはイギリスで一番格好いい歌手だったと思います。あまりそういう印象はないかもしれませんが、彼のレコードでは意外にもマンドリンやヴァイオリンなどをよく使っていて、けっこう特徴的なんですね。それがオーディオ・ファイルな重量盤でどう聴こえるのかなと興味がありましたが、B面の1曲目「マギー・メイ」を聴いてみると、驚くほどの違いはないけれど、マンドリンなどやはりアクースティックな楽器はいい音ですね。

アナログ盤試聴③
Little Feat『Dixie Chicken』

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PB 次はリトル・フィート『ディクシー・チキン』のモービル・フィデリティ盤を、CDと聴き比べてみたいと思います。どの曲にしようか。「トゥー・トレインズ」あたりでどう?
和田 いいね。僕はこのアルバムを細野さんに教えてもらったんだけど、初めて聴いたときはびっくりした。
PB だよねぇ。じゃ、まずはCDから。ちなみにこれは初期のCDだけどリマスターはリー・ハーシュバーグですね。
和田 リー・ハーシュバーグは素晴らしいエンジニアですね。
PB では、同じ曲をレコードで聴いてみましょう。
和田 もう、断然レコードのほうがいいね。キックの音は空気がブルンと振るえているのが分かる。これは本当にいい音だ。
PB ベースとキックと、あとパーカッションも、どれもすごくいい音してるなぁ。また、なぜか分離もよくなったように聴こえるね。
和田 そうだね。で、このアルバムはクローバー・スタジオの録音だけど、同じくロサンゼルスにはサンセット・サウンド・レコーダーズがあって、このスタジオでは“はっぴいえんど”がベルウッド・レーベルから出した最後のアルバム『HAPPY END』をレコーディングしています。そのとき細野さんはヴァン・ダイク・パークスに誘われて、クローバー・スタジオでこの『ディクシー・チキン』をレコーディング中のリトル・フィートを見たそうなんだけど、そこはとても狭いスタジオだったらしいんです。でも、「出来上がったレコードを聴いたら音がすごくよかったのでびっくりした」と言ってました。ちなみに、リトル・フィートのローウェル・ジョージとビル・ペインは、『HAPPY END』のレコーディングにも参加しているんですね。クレジットはされていないんだけど。

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試聴したアナログ・レコード。マニア御用達の高音質アナログ重量盤やSACDでお馴染み
モービル・フィデリティの商品は、“yukimu Online Store”でも購入できる。

Coming Soon

PB 今回、僕がお勧めするライヴは11月21日~24日、東京・丸の内のコットンクラブで公演を行うスタントン・ムアです。彼は、1990年代初めの頃にデビューしたギャラクティックというバンドのリーダー格としても知られるドラマーです。セカンド・ラインのリズムを叩きながら、新しい時代のグループとしてニュー・オーリンズ・スタイルにも縛られることなく、ファンクやヒップホップを採り入れています。一方、ソロ・アルバムではジャズだったり、あるいはセカンド・ラインとジャズを組み合わせたものだったりするけれど、ドラミングのセンスには素晴らしいものがある。ニュー・オーリンズの中でもすごくいいドラマーの一人だと思います。今日は、彼の新しいソロ・アルバム『カンヴァセイションズ』を持ってきましたが、編成はジャズのピアノ・トリオになっています。来日公演も、このアルバムの録音メンバーと同じく、デイヴィッド・トーカノウスキー(ピアノ)、ジェイムズ・シングルトン(ベース)とのトリオで行われます。デイヴィッド・トーカノウスキーは、やはりニュー・オーリンズの名脇役的な存在で、この人の名前もいろんなアルバムで見られますね。
和田 スタントン・ムアの最初のソロ・アルバムは、これとギャラクティックの中間くらいの感じかな。もう少しドラムに音圧感があって、キックとかすごく格好いいんだよね。
PB そうだね。でも新作も、よく聴くと曲によっては歯切れのいい、ニュー・オーリンズらしいドラミングをしています。
和田 なんでもできちゃうんだね。昔はスケールの大きい、ファンキーなドラマーという認識だったけど。このアルバムだと4曲目の「Magnolia Triangle」は僕が知っている感じにやや近いかな。
PB 彼のようなスタイルには前例がないわけではなくて、かつてリオ・モリス、後にイードリス・ムハマッドと名前を変えたドラマーがやはりニュー・オーリンズにいました。今年7月に亡くなった彼は60年代、まだ多くの人がセカンド・ラインという言葉を知らない時代に、すでにこういう感覚を持っていました。ルー・ドナルドソンが1967年に出した有名なアルバム『アリゲーター・ブーガルー』のドラムもリオ・モリスです。ギターはジョージ・ベンスンが弾いているのですが、すごく格好いいアルバムですね。
和田 そうだったんだ。

PB 最近はヒップホップの感覚を持ったドラマーも増えてきましたよね。それはそれで面白い現象だと思います。たぶん、どの世代のミュージシャンにもその世代のリズム感というものがあるのでしょう。ジャズという音楽は、そのインプロヴィゼーションが好きでも、リズム感が自分の感覚に合わないと今一つのめり込めないということはあると思います。僕も歳を取ったらいろんな音楽を聴けるようになってきたけれど、10代の若い頃はやっぱりロックに近いリズム感は好きだけど、ジャズの4ビートには馴染めませんでした。だから、今のヒップホップ世代も、どこかにそういうノリがないと聴きづらいんじゃないかな。
和田 最近だとホセ・ジェイムズやロバート・グラスパーといった面々がジャズとソウルをヒップホップ感覚とともに結んでいる感じがある。また、ロイ・ハーグローヴのRHファクターも、独特の雰囲気を持ったリズム隊だよね。
PB ジャズという音楽をどう聴いたらいいのか分からないという人がけっこういますが、自分が慣れているリズム感やグルーヴがあれば、それで聴けちゃうということはあると思います。僕が最初に好きになったジャズはジミー・スミスなんですが、それはきっとR&Bのノリがあったからだと思う。
和田 僕も同じようなものです。でも、だんだん慣れてくると、ちんぷんかんぷんだったフリー・ジャズがある日突然、すっと入ってくるんだよね。
PB ああ、それは分かります。いろんな意味で(笑)。

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Stanton Moore『Conversations』

PB's Sound Impression

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PB 『ライヴ/デッド』を初めて聴いた当時、僕はまだステレオすら持っていなくて、このアルバムはモノラルのレコード・プレーヤーで聴いたのですが、それでも他のアルバムに比べて「なんかいい音してるな」と思ったんですよ。そして、こういうハイエンドのシステムでこのアルバムを聴いたのも初めてですが、さすがにいい音ですね。ラジオ局のスタジオよりもさらにいい音です。やっぱり僕は、世代的なこともあると思うけれどアナログ・レコードの音が好きですね。先日も、雑誌の企画でレコードとCDとハイレゾ・ファイルを4つの作品で聴き比べたんです。試聴した作品にはポール・マカートニーの『ニュー』もあったんですが、そうした新しい録音のものも含めて、僕の耳にはなぜかLPがいちばんふくよかに響きました。
和田 そうなんだよね。レオン・ラッセルの新作がブルー・ノートから出たけれど、これもCDとアナログとハイレゾ・ファイルが同時発売なんです。で、3つをいっぺんに聴いてみたら、デジタル録音であるにもかかわらず、レコードがいちばんいい音だった。やっぱり針で擦るのがいいのかな。
PB でもね、ELPのレーザー・ターンテーブル・プレーヤーで聴いても同じようなよさが必ず出るんですよ。どうしてなんだろう。本当にこれは謎ですね。
和田 思い込みでなく、どう聴いてもレコードのほうがよく聴こえることのほうが多いよね。その理由は分からない。僕も家で手が伸びるのは50%がレコード、あとの50%をCDとハイレゾが半々という感じだけど、自然にそういう選び方になってしまう。ただね、アナログもデジタルも、極めていくと音は似てくるんですよ。CDはレコードのようなサーフェス・ノイズやスクラッチ・ノイズがなく、静かではあるけどね。
PB まぁ、そこから先は好みの問題ということだよね。

わだ・ひろみ ◎1948年生まれ。1970年、22歳で高円寺にロック喫茶“MOVIN’”をオープン。72年、ロック・バンド“はちみつぱい”にベーシストとして参加。86年からは音楽プロデューサーに。加えてオーディオや音楽に関する文章をオーディオ専門誌に寄稿。現在はアナログ再生/ハイレゾ・ファイル再生の両方に精通するオーディオ評論家として活動中。

◎今回のリスニング・システム

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アナログ・レコード試聴で使用したターンテーブルはTHALES TONARMのターンテーブルTTT-C

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トーンアームのTHALES TONARM SIMPLICITY Ⅱともに、スイスの時計職人、ミッハ・フーバが超高精度の手作業で組み上げた美しい逸品。


ターンテーブル:THALES TONARM TTT-C、トーンアーム:THALES TONARM SIMPLICITY Ⅱ
カートリッジ:BENZ MICRO SLR Gullwing
アンプ:ORPHEUS FOUR、フォノ・アンプ:ORPHEUS PPA MkⅢ
スピーカー:ELAC FS 409