A Taste of Music vol.032013 11

by Yukimu
image Contents

◎Featured Artists
 
JOHN SCOFIELD and JON CLEARY

◎Recommended Albums
 
JOHN SCOFIELD『Überjam Deux』
JON CLEARY『Occapella!』

◎Coming Soon
 
CYRILLE AIMÉE

構成◎山本 昇

JOHN SCOFIELD and JON CLEARY

 今回のFeatured Artistは、10月にブルーノート東京で素晴らしいステージを披露してくれたギタリストのジョン・スコフィールドに注目してみたいと思います。彼の音楽の特徴を一言で表すなら、"ジャズ・ギターの文脈に、ブルーズ・ロックやファンクといった語彙を持ち込んだミュージシャン"ということになります。そうしたアプローチを行ったのは彼が初めてではありませんが、ジャズ・ギターの概念を変えることに貢献した一人であることは間違いないでしょう。
 とにかく何でもできる人で、オーケストラとやったり、バラードばっかりにしてみたり、かと思えばファンキーになったり、たくさん出ているアルバムはとてもヴァラエティに富んでいます。共作者も、パット・メシーニーやジョー・ロヴァーノなどさまざまです。彼はまた、50年代生まれのミュージシャンらしい特徴も感じさせます。僕も同い年だからわかるのですが、ビートルズを筆頭に60年代のロックを聴いて育った世代には、そうしたサウンドが潜在意識の中に深く入っていると思うんです。特に今回のようなファンキーなギターは心に響きます。時々、ジェリー・ガルシアを思わせるようなフレーズも弾いたりしますが、思えばスコフィールドは、元グレイトフル・デッドのフィル・レッシュがやっているジャム・バンドにも参加しています。やっぱりブルーズの感覚を自然に持っている人なんですね。

 スコフィールドは今から11年前に『ウーバージャム』というアルバムをアヴィ・ボートニック(g, sampler)、ジェシー・マーフィー(b)、アダム・ダイチ(ds)らをメンバーとするバンドで発表しましたが、彼はその後も3年ほどこのバンドでツアーを行っていたそうです。今回の来日メンバーは、ベーシストとドラマーがそれぞれアンディ・ヘス(b)とルイス・ケイトー(ds)に変わっていますが、いずれも気心の知れたメンバーで、ユニットとしてのまとまりを感じました。ファンク・バンドとして面白いのは、ほとんどリズム・ギターに徹しているアヴィがラップトップのコンピューターをステージに持ち込んでループを作り出していたことです。でも、ドラムのルイス・ケイトーはとてもオーガニックな感じで叩いている。機械的なものと人間の演奏を、よくここまで合わせられるなと驚くほど、しっくりとくるいいグルーヴでした。アンディが弾くのはフェンダーの1963年製プレシジョン・ベースですが、弦を親指で叩いたりせず、あくまでも昔ながらの正統な奏法をします。音が低くて太くて……いかにも重低音って感じでかっこいいんですよ。

 スコフィールドは2009年に『パイアティ・ストリート』というブルージーな作品を、それもニューオーリンズで録音すると決めて作りました。そして、このアルバムでスコフィールドが共演を望んだのがジョン・クリアリーです。今から30年も前からニューオーリンズに住み着いて、完全にあの街に同化している珍しいイギリス人のミュージシャンですが、スコフィールドはどこからか評判を聞きつけ、とにかく彼と一緒にやりたかったんだそうです。

 そのジョン・クリアリーが今年、5月のトリオ編成での日本公演に続いて、9月からはソロで来日しました。その際、僕は松江と渋谷で行われたレクチャー・コンサートの司会を務めましたが、質疑応答のときに、あるアメリカ人のお客さんから「あなたはニューオーリンズにイギリスから何かを持ち込みましたか」という質問がありました。これにジョンは「特に何かを持ち込んでいるつもりはありません。ただ、僕はニューオーリンズの音楽を単にコピーしているのではなく、長年聴き続ける中で自分なりに吸収し、フィルターにかけたものを作っています」と答えていましたが、確かにそのとおりだと思います。彼が心から愛するニューオーリンズの音楽を、今年は2度にわたって日本の音楽ファンに紹介してくれたわけですが、いずれも大成功。みんな嬉しそうに聴き入っていました。現役のミュージシャンとして、これほどニューオーリンズの音楽を楽しく伝えてくれる人を彼以外に思いつきません。

JOHN SCOFIELD『Überjam Deux』

 ジョン・スコフィールドのステージで多く演奏されたのが、今年出た最新作『ウーバージャム・ドゥ』からの楽曲でした。来日期間中、彼は僕のFM番組(Barakan Morning)に来て、曲作りについて面白いエピソードを聞かせてくれました。6曲目の「アル・グリーン・ソング」は彼とアヴィの共作ですが、レコーディングの際、「この曲は本当に俺たちの曲でいいのかな。なんかアル・グリーンみたいだけど、盗作じゃないよね?」って話していたそうです(笑)。念のため調べてみたら、問題はなし。でも、どう聴いてもアル・グリーンみたいだから、こんなタイトルにしたのだとか。それはともかく、「アル・グリーン・ソング」を聴いていると、全体的にはクリアな音だけど、ドラムはとてもアナログっぽい感じがします。今思い出したのですが、スコフィールドによるとこのアルバムは以前にも使ったことのあるニューヨークの"SEAR SOUND"というスタジオでの録音で、今では珍しくアナログの古い録音機材が健在、部屋の鳴りそのものもすごくいいところなのだそうです。ヘッドフォンで聴いたときには気が付かなかったけれど、こうしてスピーカーで少し大きめに音を出してみると、確かにアンビエントの音がかなり利いていることがわかりますね。


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Photo by Takuo Sato 写真提供:ブルーノート東京

 ジャズ・ギターの概念を変えたミュージシャンと言えば、パット・メシーニーやマイク・スターンなど、やはり1950年代生まれのギタリストが思い浮かびます。もはや、ジム・ホールやバーニー・ケセルらの音をジャズ・ギターととらえている人のほうが少ないんじゃないでしょうか。そんな中で、僕はジョン・スコフィールドがいちばん好きなんですが、彼がブルーズっぽい音を出しているときがもっともしっくりくると感じます。もちろん、これは好みの問題ですが、僕は肉体と理性の両方を刺激してくれる音楽が好きなんです。身体だけを刺激されるのもつまらない。脳細胞も活性化させてくれるような音楽であってほしいんですね。スコフィールドの音楽はまさに、その両方の欲求を満たしてくれるんです。理屈云々ではなく、聴いていて頭がスカーンとなるような瞬間───僕が生涯でいちばん好きなギタリストの一人がジェリー・ガルシアなのですが、彼の音楽を聴いていてもそういう瞬間があります。なぜそうなるのかは上手く説明できないんだけど……。それは、レコードやCDでもそうなるんですが、ライヴだとより強調されるようです。

 実は、スコフィールドが2005年にレイ・チャールズのトリビュート・アルバム『ザッツ・ワット・アイ・セイ』を出したときに、初めて彼の来日コンサートを同じくブルーノート東京で観たんですが、「アイ・ゴット・ア・ウマン」での彼のギター・ソロがものすごくよかったんです。興奮しきった僕は、勝手に楽屋へ押しかけて、「さっきの演奏を僕のラジオのリスナーにも聴かせたいから、録音していたのなら音を提供してくれませんか」と、ダメもとで頼んでみたんです(笑)。そうしたら後日、メールが届いてOKだと。CD-Rを送ってくれたので、番組でかけました。リスナーが大喜びしてくれたのは言うまでもありません。グレイトフル・デットもそうですが、昔からジャム・バンドの人たちはライヴ音源については管理がゆるくて、むしろ「どうぞみんなで楽しんで」っていう人が多いですね。

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ユニバーサルミュージック UCCM1222

JON CLEARY『Occapella!』

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HUB浅草店でのソロ・コンサート(9月28日)。写真提供:バッファローレコード

 ジョン・クリアリーのアルバムは、アラン・トゥーサントのカヴァー集『OCCAPELLA!』を推薦します。このジョン・クリアリーとドクター・ジョンに共通していることが一つあります。二人とも、ピアニストとして知られていますが、実は最初に手にした楽器はギターでした。このアルバムではジョン・クリアリーが一人でいろんな楽器を演奏していてギターも久々に弾いたそうですが、なかなか上手ですよ。ヴォーカルも抜群にいいてすしね。彼の話によると、次のアルバムもほとんど出来上がりつつあるそうです。ただ、アラン・トゥーサントにホーンの編曲を頼むことになっているらしいんだけど、ジョンが日本ツアーを終えてニューオーリンズに戻った頃にはアラン・トゥーサントが来日して、アラン・トゥーサントが帰ると今度はジョンがまたどこかにライヴに出てしまうそうで(笑)、スケジュールを合わせるのが大変なんだそうです。しかしまぁ、来年には出るでしょうから、こちらも楽しみです。
 ところで、「トゥーサント」と言うのは、本人がステージでそう発音しているのを聞いたからです。日本では間違いのように聞こえますし、ぼく自身も長年ずっと「トゥーサン」だと思っていたのですが、こればかりは彼自身の発音に倣うべきでしょう。

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バッファローレコード BUF514

CYRILLE AIMÉE

 今回、僕がお薦めするライヴは、シリル・エイメーです[12月9日(月)〜11日(水)◎東京・丸の内コットンクラブ]。前回のセシル・マクロリン・サルヴァントに続いて女性ジャズ・ヴォーカリストの登場です。先ほど、ジャズ・ギターの概念が変わってきたというお話をしましたが、それはジャズ・ヴォーカルも同じです。時代でいえばカサンドラ・ウィルソンやホリー・コールあたりから、ジャズだけど選曲がブルーズだったり、カントリーやポップだったり……、2000年以降ではノーラ・ジョーンズなど、ジャズのフィーリングは持っているけどいわゆるジャズの歌手という枠に収まらない人が増えてきました。シリルもそんなミュージシャンの一人でしょう。彼女たちが過去の歌手の影響を全く受けていないわけではないでしょうけれど、サラ・ヴォーンやエラ・フィッツジェラルドたちとの明確な共通点は見出しにくくなっているように思います。ネット上の映像で、シリルがサンプラーを使って自分の声をその場でサンプリングして重ね、ループさせながら歌っているのを観たんですが、これがとても面白いんです。やはり若い感性を持っている人はやることが違う(笑)。それも、とても上手にやってくれるから楽しめるんですね。オリジナリティもあるし、すごく活き活きとしているように感じます。

 一方で、シリルは両親に連れられていろいろな地を転々とする中、パリ郊外にあるジャンゴ・ラインハルトに縁のある村に住んでいたことから、マヌーシュ・スウィングの影響も受けているようです。ジャンゴ・ラインハルトが確立したマヌーシュ・スウィングと言えば、とても強いスウィング感のあるリズムが特徴です。スティール弦を張ったアクースティック・ギターの流麗な早弾き、あっと驚く指さばきが印象的です。でも、そこに嫌みな感じは全くありません。あくまでも個人的な好みの問題ですが、例えばジョン・マクラフリンなんかの速弾きには、時々ついていけないことが僕にはあります。アル・ディ・メオラに至ってはすごすぎて、聴きたいとも思わない(笑)。ところが、ジプシー(ロマ)の人たちにはなぜか抵抗がないんです。もしかしたら、元々は踊らせるための音楽だからかもしれませんが……。マヌーシュの演奏にも「どうだ。まいったか!」という感じは確かにある(笑)。でも、やっぱり素朴なんです。シリルはそんなマヌーシュ・スウィングを最新作の『グッド・デイ』に採り入れていますが、すごくかっこいいと思います。今回のステージでも、彼女の多様な感性が感じられることでしょう。

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ビクターエンタテインメント VICJ61693

12月7日(土)「ケルティック・クリスマス2013」

 今回は特別に、クリスマスのライヴをもう一つお薦めしたいと思います。すでにファンには毎年お馴染みになっている「ケルティック・クリスマス」ですが、個人的に今年のラインアップはとてもいいと思います。中でも、シャロン・シャノンという天才的な女性アコーディオン奏者は要注目です。アイルランドのトラディショナルな音楽にロックのニュアンスを込めて、グループ編成で演奏しています。また、ルナサというグループは完全なインストゥルメンタルで、シャロンのグループと同様にギターも入っていますが、アイリッシュの伝統音楽をとてもリズミカルに絶妙な演奏で披露してくれます。こうした新しいアイリッシュの音楽を聴くと、アイルランドがロックのルーツでもあることがよくわかります。ロックンロールのルーツはブルーズやカントリーと言われ、ブルーズのルーツはアフリカに、カントリーのルーツはスコットランドやアイルランドにたどり着くわけです。そんなことを想像しながら楽しんでみてはいかがでしょうか。

会場:すみだトリフォニーホール 出演:シャロン・シャノン with ステファニー・カドマン/ルナサ/カトリーナ&クリス 詳細はこちらへ。

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試聴したリスニング・システム:Aura note V2(CDレシーバー)、ELAC BS 312(スピーカー)

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実際に音を聴きながらその魅力を掘り下げる"A Taste of Music"。今回はAuraとELACのニュー・モデルをチョイス。アンプやチューナーなどが一体となったCDレシーバーと小型スピーカーというシンプルかつコンパクトなシステムは、パーソナル・ルームはもちろん、リヴィングにも置きたくなる見事な組み合わせ。取り上げた新しいジャズ、そして現代のニューオーリンズ・サウンドを小気味よく聴かせてくれた。